新世紀へのメッセージ

〜Part 3 〜
  電子申告の課題

 全員確定申告が前提となった場合、電子申告が、確定申告の効率化に果たす役割は大きいわけです。 2003年から、わが国での「電子申告制度」の本格的な導入が決まっています。
 電子申告には、電話回線を使ったダイアルアップ方式とインターネットを使った方式とがあります。 税理士会は、インターネット方式のシステム〔電脳申告制度〕構築に意欲的と聞きます。 これは、ダイアルアップ方式では、税理士が関与していない納税者向け電子申告業務に民間プロバイダー (送信仲介者)の参入が危惧されるのも一因でしょう。言い換えると、税理士法で「無償独占」とされている税理士の業務、 とりわけ「税務書類の作成」業務への新規参入・侵食を食い止めることがねらいのように見えます。
 ただ、全員確定申告を前提とした時代を考えた場合、税理士による代理人電脳申告、納税者自身による本人電脳申告だけで、 システム全体がうまく稼動するようには思えません。だからといって、税理士が、 関与先でもない納税者のためにプロバイダー業務だけをやる、というのも現実的ではありません。
 いずれにしろ、たとえ「電脳申告」を採用するにしろ、コンピュータ(ハード)は無論のこと、 申告ソフトをダウンロードしてまで納税申告をしたくない人も少なくないはずです。本人確認(電子認証)など、 さらに面倒な手続を考えると、ネット通信に得意な納税者であって躊躇するのではないでしょうか。 年一回の確定申告の電子送達は、専門のプロバイダーがいれば、その人に任せたいと思うのではないでしょうか。 また、そもそもコンピュータなどにはまったく興味のない人もたくさんいます。
 こうした納税者も、身近なところで電子申告ができるようにシステム(インフラ)を作り上げる必要があるわけです。 こうした人たちは、従来どおりの文書(ペーパー)申告すればよいでは、IT化社会の構築は、 まさに「絵に描いた餅」と化すのではないでしょうか。
 この場合、電子申告インフラの整備については、公共政策の選択としては、大きく2つの道が考えられます。
 一つは、電子申告業務を「市場競争」に委ねる方法です。つまり、「民間のプロバイダー」の新規参入を認める形です。 このケースでは、場合によっては、現行の税理士法上の「税務書類の作成」業務を「名称独占」に改正する必要もでてきます。 例えば、アメリカは「IRS(課税庁)認定プロバイダー」という形で、民間業者を電子申告業務へ参入させることで、 電子申告インフラを構築しています。
 もう一つは、電子申告を「政府規制」に委ねる方法です。 このケースでは、先に触れたように、税理士が関与先でもない納税者のためにプロバイダー業務をやるのが現実的でないとすると、 公的セクターに属する機関がこうした業務をやらざるを得なくなります。
 このケースでは、対応策としては、全国24,700余りある郵便局を電子申告の窓口として活用するのも一案です。 「有償独占」を基礎とする税理士制度を持つオーストラリアでは、電子申告業務への民間プロバイダーの参入を認めていません。 その代わり、郵便局を活用し税理士の関与していない納税者の便宜を図っており、参考となるのではないでしょうか。
 公共機関としての郵便局に、プロバイダー業務を任せ、本人電子申告をしたい納税者の便宜をはかり、 併せて郵便法9条により課された守秘義務により、納税者のプライバシーの保護をはかることもできます。 郵便局の活用は、国税・地方税の一元的な合同電子申告の開発・利用にも便利です。
 真に必要なのは、「税理士や課税庁が主役」の電子申告システムではなく、「国民・納税者が主役」のシステムなわけです。 このためには、税務書類の作成業務の「有償独占」化も視野に入れて、納税者に開かれた電子申告システム構築を図る 必要があるのではないでしょうか。
 税理士会は、「市場競争」、「政府規制」いずれを選択するにしろ、 一般納税者向けの手軽に利用できる電子申告インフラ整備にもっと情熱を傾けるべきではないでしょうか。 まさに、一般納税者不在、国税庁任せの税理士会の姿勢が問われています。


前のページへ
前のページへ
次のページへ
次のページへ