〜Part 5 〜 MDP時代への備え |
高熱が続き、以前に経験したことのない症状が続いたとします。この場合、
一応かかりつけの開業医に診てもらうかもしれません。しかし、症状によっては、検査設備が整い、
複数の専門医のいる総合病院で診てもらった方が良い場合も少なくないわけです。
総合病院ように、一箇所で多様なサービスを受けられる仕組みを、英語では「ワン・ストップ・サービス」といいます。 まさに、MDPとは、「ワン・ストップ・サービス」のコンセプトの下で考えられる仕組みです。 MDPは略称である。正式には、multidisciplinary practicesといいます。"multi"は「多」、 "disciplinary"は「紀律」あるいは「専門職倫理」を意味します。 つまり、倫理基準の異なる専門職が一同に会して業務(practices)とするのがMDPです。 ここでは、MDPを「多専門職間共同業務」あるいは「多専門職共同事務所」とでも訳しておきます。 MDPの仕組みでは、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士など、多様な専門職が収支を共にし、 共同でサービスを提供し、事務所経営に当たることになります。 いわば、専門職(自由職業)サービスの総合病院ないしはスーパーマーケットといったところです。 わが国では、規制緩和の一環として、かねてから弁護士や公認会計士、税理士など複合的な専門職の事務所、 「総合的法律経済関係事務所」の開設が提言されています。まさに、この提言は、わが国でのMDPの制度化がねらいです。 MDPは、ドイツが発祥の地です。今日、各専門職の職業倫理がしっかり確立された諸国では、MDPは摩擦を生んでいます。 にもかかわらず、UE、北米、アジアとグローバルに開花してきています。 新世紀において、わが税理士界は、MDP問題は避けては通れないのではないでしょうか。 税理士が、MDPの中で独立して専門職サービスを提供するには、高度の倫理基準をもつ税務の専門職として 確固たる地位が必要です。このためには、先に触れた税理士サービス・スタンダード(税理士倫理規則)の確立を急ぐ必要です。 すでに弁護士や公認会計士には倫理規則があります。 まさに、税理士が、税務の専門職市場の中で、「専門職の分立(Separation of Professions)」ルールを主張し、 他の専門職と競え合えるかどうかは、高水準の税理士サービス・スタンダードを確立できるかどうかにかかっているといえます。 公認会計士や弁護士の大幅増員が現実のものになりつつあります。こうした中、税理士界が、簡易監査だ、 法廷陳述権いや訟務代理権だと、徒に職域の拡大に奔走するのはいただけません。むしろ、高いスタンダードを定め、 税務の専門職として特化する道を選択すべきではないのでしょうか。 弁護士や公認会計士が量産されれば、逆に、一流を目指す税理士にとっては、MDPコンセプトで多専門職共同事務所を開設、 運営し、彼らを使って大きく羽ばたけるチャンスがやってきます。リーズナブルな費用で弁護士、公認会計士を雇える時代の到来です。 検討中の税理士法人についても、社員は税理士に限定・無限責任では時代遅れのような気がします。MDPコンセプトも視野に入れ、 税理士持分50%超・有限責任のような、新世紀にも耐えうる制度作りが求められます。公認会計士界は、 すでにこうした道を探っています。 新世紀はMDP全盛の大競争時代になるのかもしれません。高水準の専門職スタンダードを確立した上で、 経営能力を問われる熾烈な競争に向かって大きな変化を求めるのか、あるいは座して他の専門職に呑み込まれてしまうのか、 税理士一人ひとりに問われているといえます。 新世紀の税理士の生き残りは、税理士や課税庁が主役ではなく、確実に「納税者が主役」となる形での税理士像、 つまり広く「国民・納税者に開かれた税理士像」が求められる時代になると見られます。 今日、好む、好まざるとにかかわらず、あらゆる分野において「市場原理」の徹底が求められてきています。 スーバーマーケットや量産店で、消費者として市場競争の恩恵に浴する一方で、税理士サービスに対し「政府規制」 を求める"内なる役所社会主義"、"自己矛盾"との葛藤、戦いの世紀のようにも見えます。 |
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