(1)全輸入一律10%関税 [10% ad valorem baseline tariff on imports of all foreign-origin goods] 相互関税対象国
かどうかを問わず、全輸入品に10%の一律基本関税[baseline tariff] イギリス、シンガポール、ブラジル、オーストラ
リア、ニュージーランド、トルコ、コロンビアなど約100か国が対象[4月5日発動]
(2)国別特定関税率 [country-specific tariff rates on imports from certain trading partners] 特定の貿易相手国に対
して同水準まで各国ごとに関税引上げる政策。トランプ大統領は、4月3日に対象国・地域リスト(180超)と税率を
公表。日本24%、韓国25%、中国34%、台湾32%、EU20%、インド26%、ベトナム46%、タイ37%、カンボジア
49%、バングラデシュ37%など約60か国が対象。なお、原則として、(2)には(1)の10%税率が含まれている。
また、自由貿易協定などを無視して課税する。 [4月9日発動]
アメリカでは、通例、大統領は、毎年初めに、3大教書(3 Mager Presidential Messages)を連邦議会に送る。それらは、?一般教書(State of the Union Message )、?経済報告(Economic Report )、?予算教書(Budget Message )からなる。これらは一括して、大統領の「所信表明」とも言われる。
税は足の速い分野である。それにしても、トランプ2.0[第2次]政権の課税政策の回転速度ははやすぎる。投機ビジネスが大好きなトランプ大統領にはふつうの速度なのかも知れないのだが・・・。
トランプ大統領は、3月初めに自動車(25%)など「品目別課税」や、中国(10%+10%)・カナダ/メキシコ(25%)をターゲットにした「国別関税」を公表した。世界経済の大揺れの始まりである。
続いて、トランプ大統領は、4月2日(日本時間3日)に「相互関税」プランを公表した。トランプ「相殺関税」の驚くような厳しい内容に、世界に激震が走った。わが国の輸出依存型の企業の多くも、経営の行先が不透明になった。これまでのビジネスモデルが一夜にして陳腐化してしまったからだ。
日々激変するトランプ関税政策は、尋常なスピードではない。事なかれ主義で、ド素人相手に税金教育をし生活費を稼いでいる大半のノロマな大学教員には、キャッチアップ(ついていくの)が至難だ。
課税問題では「103万円の壁」程度の興味しかない政治家や小市民も同じだろう。どんな新たな課税問題が起きているのか理解するのに、もう少し時間が欲しいのではないか?
トランプ2.0政権が公表した「鎖国」、「相互関税(reciprocal tariffs)」実施プランは、次のとおりである。
《「相互関税(Reciprocal tariffs)」:(1)+(2)》
(1)全輸入一律10%関税 [10% ad valorem baseline tariff on imports of all foreign-origin goods] 相互関税対象国 かどうかを問わず、全輸入品に10%の一律基本関税[baseline tariff] イギリス、シンガポール、ブラジル、オーストラ リア、ニュージーランド、トルコ、コロンビアなど約100か国が対象[4月5日発動]
(2)国別特定関税率 [country-specific tariff rates on imports from certain trading partners] 特定の貿易相手国に対 して同水準まで各国ごとに関税引上げる政策。トランプ大統領は、4月3日に対象国・地域リスト(180超)と税率を 公表。日本24%、韓国25%、中国34%、台湾32%、EU20%、インド26%、ベトナム46%、タイ37%、カンボジア 49%、バングラデシュ37%など約60か国が対象。なお、原則として、(2)には(1)の10%税率が含まれている。 また、自由貿易協定などを無視して課税する。 [4月9日発動]
アメリカに貿易赤字をもたらさない国(イギリスや豪など)には、(1)10%の基礎税率課税。そうでない国には、(2)国別に追加関税をかける・・・。で、日本は24%(10%+14%)。「相殺関税」とは、こうしたシナリオである。
また、中国は国別関税(20%)+相互関税(35%)、カナダ・メキシコは国別関税(25%)のみで相互関税は課されない。ロシアやベラルーシ、北朝鮮はリストにアップされていない。政策的配慮とされる。
前記の「相互関税」の税率は上限である。中国やカナダのように国力のある国、強い指導力ある国は、報復関税を臨むことも可能だ。しかし、「アメリカ1強」に抵抗できない諸国・地域は、今後アメリカとの2国間交渉[ディール]で引下げ可能になる。土下座外交が強いられる構図だ。
公表された国別税率はコシダメで、いい加減だ・・・。アメリカ通商代表部(USTR)が、算定数式をHPにアップしている。これによると、各国からの貿易赤字額を分母に、そして各国の輸入額を分子にして算出した比率(日本は46%)から割引した比率(日本は24%)を公表したようだ。
相互関税の算定の仕方は「科学的ではない」として、世界中からの批判が渦巻く。だが、トランプ政権は、「国別特定関税率はアバウト、フェイクでもいいじゃないか。アメリカが交渉カードを握れればそれでイイ!」。そんな戦術なのである。あくまでも「自国第一」なのである。だが、政府が右往左往するなか、わが国の企業によっては、それこそ死活問題なのである。
例を挙げて見てみよう。刃物を製造販売する会社が、わが国で製品を製造販売するとともに、ベトナムに進出し製品を生産し、アメリカに輸出しているとする。この会社は、わが国から製品をアメリカに輸出すると、アメリカでは製品には24%の「相互関税」が課される。一方、ベトナムからアメリカに輸出すると、46%の「相互関税」が課される。
中国に進出している場合はどうだろうか。中国には「国別関税」ですべての輸入品に20%の追加関税[3月4日発動]がかかる。これに中国の「相互関税」は34%がかかる。合わせると、54%になる。
“内需”で生き残り?? これも、“人口減”で、大学を含め国内のあらゆる産業の行先が至難な常態を考えれば、望み薄である。消費者人口増につながらない過激な移民排斥、民族主義ファーストだけでは、この国はさらに衰退する。
* * *
アメリカでは、通例、大統領は、毎年初めに、3大教書(3 Mager Presidential Messages)を連邦議会に送る。それらは、?一般教書(State of the Union Message )、?経済報告(Economic Report )、?予算教書(Budget Message )からなる。これらは一括して、大統領の「所信表明」とも言われる。
ところが、トランプ1.0政権では、税制改革(税革)案を含む完全な予算教書は5月23日に提出した。政権次第で、予算教書の提出時期はまちまちである。税制(減税)改革案を含むトランプ2.0政権の予算教書の議会提出はこれからである。多分、正式な予算教書の成立は、5月末近くになるのではないか。
17%の相殺関税を課されたイスラエルのネタニヤフ首相との4月7日の会談が、世界初のディールとなると報道されている。だが、トランプ大統領は、各国との相互関税の引下げディールには簡単に応じないのではないか?なぜならば、トランプの減税財源が、「相互関税」収入なわけだからだ。
いま各国とディールに入ったら、フェイクの税革案がばれてしまう。トランプ大統領は、聴くふりはするだろう。だが、税革(減税)法案が議会を通過するまでは、本格的な税率引下げディールは、難しいのではないか。
* * *
「所得課税」中心のアメリカが、「関税」を主要財源に育てる・・・??明らかに時代錯誤ではないか?
「高関税政策」「保護貿易主義」の台頭で第二次世界大戦を招いた。大戦後、アメリカは自由貿易主義の旗手としてGATT、続くWTOつくりの旗振りをしてきた。それが、いきなり、保護貿易主義に変身して、アメリカを関税の「壁」で囲むのだという。主要財源となる関税を取り立てる「対外歳入庁(ERS=External Revenue Service)」も創設するという。「破壊こそ建設なり!」で、「新常態(new normal)」をつくる?? イヤ、ただの「愚策」ではないか?
トランプ大統領の「相互関税」は、実質的にアメリカの消費者に対する「消費税」に相当すると見るのが妥当だろう。関税の名を偽装した“カラクリ”で、実質、単段階の間接税にあたるのではないか?
トランプ政権は、いろいろと理屈を並べる。「EUや日本は、VATの輸出ゼロ税率で輸出補助金を出して安価な製品をアメリカに輸出している。」、「結果、アメリカの国内産業は衰退する、貿易赤字は膨らむ・・・。一方、アメリカが輸出する製品には消費税(VAT)がかかり、高い非関税障「壁」が立ちはだかる・・・」「だから、アメリカも、『相互関税』という名の『壁』、単段階の消費税を導入する・・・。」
学問的には「仕向地主義/消費地課税主義の間接税」をどう考えるかが問われている。もう一度、基礎から点検しないといけない。
「相互関税」は、世界のサプライチェーンを滅茶苦茶にしてしまう。早くストップして、WTO体制に復帰しないといけない。第3次世界大戦にならないように、知恵を絞らないといけない。
* * *
わが国は、正直にいえば、対米追従、防衛ただ乗りを正当化できる「平和憲法」で、これまで繁栄してきた。「平和外交ファースト」は正道である。ただ、見方によっては、トランプ2.0政権の誕生で、対米追従が必ずしも“正論”とはいえなくなりつつある。いわば“言うだけ番長”でいられる“免罪符”のご利益が薄くなったともいえる。
いまや世界の勢力図をガラリと変える「力によるトランプ外交」が圧倒している。遺憾であるが、「ディール(取引)する価値のないような小国は捨て駒になれ!」のスタンスである。歴史の時計の針を 帝国主義時代まで巻き戻したような感じである。
わが国の現政権は、製品分野別(輸入車)関税や相互関税の適用除外を懇願する土下座外交、トランプ忖度外交で逃げ切ろうとしているようにも見える。閣僚が、「日本だけは例外扱いに!」とトランプ詣でをし、抜け駆けを狙う姿勢は何とも寂しい限りである。トランプ大王のパシリ(走り)をしているだけでは国際信用を失いかねない。「見て見ぬふりをする。自国さえよければいい。おまかせコース大好き。」とするスタンスは卒業しないといけない。
「高関税で脅され、アメリカの1つの州になれ!」とトランプ大王に脅されたらどうするであろうか。「御意のままに!」で、事なかれ主義に徹しようとするであろうか。「白旗ならぬ、赤旗を掲げて近隣の権威主義国家に屈服するよりはトランプ大王の方がまし!」とは考えてないと思うが・・・?
口先だけで「政権交代」を叫ぶ野党党首はどうだろうか?「アメリカの属国にはならない。こちらも報復関税で戦う!」で、カナダの新首相になったカーニー氏のようにふるまえる“であろうか? 歯切れのよいキャッチを考案し、その場限りの適当なことを「言うだけ番長」を卒業しないと、国民に見放される。
わが国の税革論議は、「コップの中の嵐」で、「103万円の壁」などで空騒ぎしている。それこそ、 “島国ファースト”、いや“鎖国”に近く、国際感覚は乏しい。平和ボケし、政治家の小粒さも目立つ。悲しいことに、今般の「相互関税」問題、 “関税戦争”では、まともに議論できる政治家がいるとは思えない。
皆で、「世界同時不況になるのでは?」などと悪い予言を重ねているだけではいけない。本当に「予言の自己成就(self-fulfilling prophecy) 」に進むかも知れないからだ。
私ども日本人は久しく、アメリカ民主主義を、完璧ではないけれども、自由や人権を謳歌できる好意的なモデルと見てきた。中国やロシアなどの専制主義モデルよりはまし、と見てきた。しかし、いまやトランプ2.0政権の出現で、アメリカンモデルは他国が信頼を寄せるには、あまりにも劣化し、壊れてしまっている。
いずれにしろ、これまでのような過度なアメリカ頼りで、軽々な言葉だけで平和の舵取りを稚拙に論じるのは反省しないといけない、と思う。