2024/11/25

米「またトラ政権」で、記入済み申告/デイレクトファイル(DF)/IRS/IRSの納税者権利擁護官はどう対応する??

・ アメリカでは 「またトラ政権(President Trump, Again」が2025年1月末から始動する。またトラ政権は、大統領選勝利後、即、政府効率化省/DOGE(ドージ/Department of Government Efficiency)を新設する構想を発表した。

・ DOGEは、仮装空間(ネット空間)に設立され、イーロン・マスク&ビベック・ラマスワミら新興企業経営者らが、 ボランティア(無給)で参加・主導する。外部からのボランティア参加は、政官民間の利益相反を回避するねらいからだ。DOGEは、またトラ政権が提唱する「連邦税減税政策」に加え、連邦省庁の整理・統合」、「連邦省庁の職員削減プラン/歳出削減プラン」を作成し始めた。

・ アメリカの場合、歳出は、1.義務的経費支出(mandatory expenditure)と2.裁量的経費支出(discretionary expenditure)に分かれる。

・ DOGEプランに盛られる2.裁量的経費支出削減については、大統領が、大統領令で行う。

・ 一方、DOGEプランに盛られる社会保障給付などの1.義務的経費支出削減は、議員立法で対応する。トリプルレッド (大統領・連邦議会上院・下院が共和党支配)になったことから、比較的スムースに進むのではないか?

・ 連邦政府は、おおよそ200万人の職員を雇用している。連邦財務省(DOF)はおおよそ11万人を雇用している。う ち、課税庁/内国歳入庁(IRS)は、おおよそ9万5,000人(うち正規職員は78,000人程度)【バイデン政権の プランでは、IRSの職員を数年以内に102,500人まで増員の計画。これに対して、またトラ政権は、バイデン政権のIRS職員増員計画には反対の立場。増員計画は破棄されるものと思われる。】

・ したがって、またトラ政権は、バイデン民主党政権の税務執行強化による増税政策を、減税+納税者権利擁護ファースト政策に転換する。アメリカでは、保守が「減税」+「納税者の権利擁護ファースト」を強く打ち出すのが伝統。

・ またトラ政権は、DOGEが、IRS職員の大幅削減をするプランを作成する方向。【IRS業務の州への移管計画は未定。 連邦公正税(所得課税の廃止およびIRSの廃止を盛り込んだ「給付つき連邦一般小売売上税法案」、公正税法案( FTA=Fair Tax Act of 2023)23%の連邦小売売上税の導入および賦課徴収業務の州への移管プラン/14b814a8c7074cc7d5be18174e68fb7c.pdf)の実現は、最終的に連邦憲法修正が伴うため不透明】

・ 一方、またトラ政権は、「連邦教育省(DOE)」を廃止し、業務を州に移管する計画。

・ またトラ税制改革では、「減税」が中核となる。2017年の税制改革(TCJA=Tax Cuts and Jobs Act of 2017)で 実施した個人所得税の減税(2025年までの時限を延長・継続)、TCJAでの法人税率減税(35%の超過累進税率から 21%へのフラット税率)をさらに15%まで引下げる。

・ バイデン政権、連邦議会民主党は、「すべての納税者は、納税申告を無償できる国つくりを目指す」。2024年の記 入済み申告である「ダイレクトファイル(DF)」の試行に続き、2025年1月15日からはじまる2024年度分の個人所得税の確定申告からDFの本格導入に舵を切った。一般的な確定申告(給与所得・年金申告など)は、スマホ(移動端 末)を使いワンクリックで完了。

・ 連邦議会共和党は、連邦議会民主党と対峙する狙いから、税務申告ソフト企業、申告書作成業者や税務専門職の職域護の視点から、ダイレクトファイル(DF)の本格導入に消極的姿勢であった。

・ DOGEは、あらゆる不要な政府規制の撤廃が目標。規制撤廃は、法改正よりは、AI化・自動化で実現しようという方向。

・ アメリカでは「タックス・コンプライアンス・ロボット(tax compliance robots)」や「RAI(Robotics, Artificial Intelligence, and Automation)税」の導入案も目白押しである。わが国でも、デジタル化/AI化の激流が税務専門職の職域(税務書類の作成業務+税務相談業務)を浸食し始めている。業法改正によるニセ税理士退治のような一時しのぎ(stopgap)策は、政府規制緩和の精神とぶつかるだけでなく、業界の自滅につながることが危惧される。むしろ、政府規制でつくられた税務専門職は、“DX化に向けた学び直し”、「どんとこいAI化・自動化!」のガッツ(気概)を持って対応するように求められる。

・税務のデジタル化/DX化/AI化は、納税者には利便性が高い。一方で、税務専門職には職域を奪う負の影響がある。 納税者・納税者団体と税務専門職との間の「分断(devide)」を広げる可能性も高い。ただ、デジタルネ―ティブが税務専門職界の中核を占めるのも時間も問題であろう。「分断」ではなく、「協調」の時代に入るのは時間も問題ではないか?

・ IRSの納税者権利擁護官は、記入済み申告/「ダイレクトファイル(DF)の本格導入積極的姿勢に転換。理由は、税制の簡素化が遅々として 進まないことがある。むしろ、税制は年々複雑化する一方である。給付つき税額控除(EITC/勤労所得税額控除)のような煩雑の仕組みを 継続するには、AIなどの先端技術を活用して記入済み申告の導入により、納税者に権益を保護する方向を目指すしかない。」との考えを強く打ち出すにいたっている。

・ DOGEを率いるイーロン・マスクは、将来的には、AIやロボテックスが人間労働のほとんどを支える時代がくると発 言している。彼は、デジタル化の進展で、人間はユートピアでレジャーを楽しんで生きられる存在になるとイメージ しているのかも知れない?

・ イーロン・マスクらは、当然、税務申告は、AIやロボテックスが支え、無償サービスとなるとイメージしている。

・ イーロン・マスクやメタのマーク・ザッカーバーグ、マイクロソフトのビル・ゲイツなどは、AI&ロボットなどに課税する仕組みを想定している。イーロン・マスクは、ロボット税、RAIA税の税収を、国民に配分する「ユニバーサル・ハイ・インカム」を導入する考えを発表している。

・ 「ユニバーサル・ハイ・タックス」とは何か?「ユニバーサル・ベーシック・インカム (国民全員に一定額の所得を配付する制度)」、あるいは「負の所得税」とはどう違うのかは、不透明?

・ イーロン・マスクらが率いる新設されたDOGEは、DOGEがダイレクトファイル(DF)のエスカレートによる納税者 の確定申告無償化を徹底するのではないか、との報道を受けて、アメリカで代表的な税務申告ソフト作成・販売業者 であるH&Rブロック社とインテュイット社の株価は下落した。

・ 老いが目立ち、よぼよぼで不人気のバイデン、男尊女卑に風土で勝てなかったカマラ・ハリスが残した「またトラ政 権」誕生の世界に及ぼす影響ははかり知れない。

・ 曲がりなりにも、アメリカは「議会制民主主義」を国是としている。連邦議会民主党は、2年後の連邦議会議員選挙 に向けて、生活者をもっと大事にする政党への生まれ変わりを急いで欲しい。