2022/11/23

2022年11月21日 日弁連マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」義務化に反対する集会開催

2022年11月21日 日弁連マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」義務化、医療機関への顔認証+背番号カード式自動改札システム設置に反対する集会開催

 日本弁護士連合会(日弁連)は2022年11月21日、東京永田町衆院第一議員会館で、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」義務化に反対する院内集会を開いた。集会では、2024年秋で健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府の方針に対し「本人申請に基づきカードを交付、発行するという任意取得の原則に反する」と見直しを求めた。

 政府は、国民皆保険制度で逃げ切れないマイナ保険証という名の国内パスポート(内国人登録証)を国民全員に携行させ、医療機関などに設置された背番号と顔認証データで国民の移動の自由を監視する仕組み(車輛のナンバーから追跡するNシステムに匹敵するMシステム)/顔認証+背番号カード式自動改札システムを構築する構えだ。

 医療機関や薬局などにマイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末を設置した高度な「監視ツールづくり」をする政府の悪巧みに、国民は一層不信感を露わにしている。各界からこの監視ツールつくりに対する反対の大合唱がつづいている。

●日弁連がマイナ保険証に反対する理由

 日弁連は、2022年9月27日に、会長名で、人権をむしばむマイナ保険証の事実上の強制となると、反対声明を出している。

 11月21日に院内集会で、水永誠二・日弁連情報問題対策委員会副委員長は、マイナ保険証資格確認オンラインシステムは 「名寄せやプロファイリング(人物像の推定)によるプライバシー侵害の危険がある。国民皆保険制度の日本で健康保険証を廃止しマイナカードとマイナ保険証を一体化することは、マイナカードの事実上の強制につながる。番号法では、マイナカードは本人の申請により発行すると2つの条文で明記していおり、明らかに番号法に違反する」 と指摘した。

 マイナンバーの利用分野は法律で税、社会保障、災害対策の3分野に限定されている。だが、日弁連は (1)税と社会保障分野だけでも非常に広範 (2)刑事事件の捜査や破壊活動防止法による処分の請求にも認められるなど例外が多い (3)個人情報保護委員会の監督権限が及ばない刑事事件の捜査などの分野があることなどを 指摘している。今後、マイナンバーの利用分野が際限なくエスカレートすることが懸念される。 加えて、マイナカードには個人番号のほか、氏名、住所、生年月日、性別、顔写真が載っている。このため、全ての本人確認情報を知られてしまい、特に戸籍上の性と性自認が異なる人に精神的な苦痛を与えるとしている。

 水永副委員長は、デジタル庁がホームページ(HP)で、マイナ保険証が「マイナンバーカードは国民の申請に基づき交付されるものでありこの点を変更するものではない」と説明しているのは「詭弁であると言わざるを得ない」とした。

●そもそも「マイナ保険証資格確認オンラインシステム/顔認証+背番号カード式自動改札システム」とは何か

 ただ、政府が考えているマイナ保険証の問題は、国民皆保険制度の日本で健康保険証を廃止しマイナカードとマイナ保険証を一体化することだけにあるわけではない。政府の真の狙いは、マイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステム/顔認証+背番号カード式自動改札システムの端末を国内のすべての医療機関や薬局などに設置し、国家が国民を逐次所在確認・監視できるデータ収容所列島化することにある。

 国内の医療機関や薬局などに設置されたマイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末を使って国家が国民全員の所在を集中監視できるシステムをつくることは、データ監視国家/権威主義国家の構想である。民主主義国家の構想ではない。国中の路上に張り巡らされたNシステム(自動車ナンバー自動読取システム)の医療分野版、いわば「Mシステム」の創設と見てよい。

 国民が医療機関や薬局などを訪れることで、本人のはっきりした同意なしに生涯不変の生体情報の提供を強制されるのは、個人情報保護の基本原則とぶつかる。EUをはじめとして民主国家では、センシティブ(機微)な生涯不変の生体データの利用を、人権保護の観点から厳しく制限する方向にある。

 市民団体は、とかくマイナ保険証にターゲットを絞って反対運動をしている。反対運動を報道するマスメディアも同じである。しかし、マイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムについては、日弁連2022年9月27日の会長声明でもふれているように、このシステムに付置された監視カメラ使った国民の「顔認証情報」「生体情報」の取集機能にもっと注目して反対運動をする、報道をしないといけない。中途半端な反対運動や報道になってしまっている。この背景には、監視カメラなどとによる生体認証情報の収集に慣れてしまい、生涯不変の顔認証/生体認証情報問題に対するプライバシー保護意識の希薄さがあるのかも知れない。

 ジャーナリストや市民団体は、国内の医療機関や薬局などに設置されたマイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムが、どのように国民/患者を監視する仕組みなのか、基本的な学びがいるのではないか??仕組みがよくわからないと、的確な報道や反対運動ができない。

●政府が目指すのはマイナ保険証なしでは出歩けない社会

 政府が目指すのは、マイナ保険証を持ち歩く癖をつけさせる、ひいては、マイナ保険証なしではショッピングや散歩にも出歩けない監視社会つくりである。外国人にはパスポート、内国人や在留外国人にはマイナICカード/マイナ保険証を“内国民登録証カード/国内パスポート”として、常時携行させる社会だ。

 警察官がICカード読み取り機を持って街中を巡回するデータ監視社会・監視国家への道である。職務質問でカード不携帯を理由に「交番へご同行を」の社会がくる。国家が国民の移動の自由を監視する権威主義国家への道である。

●医療機関側からも義務化はダメの声

 院内集会では、医師や歯科医師らが加入する全国保険医団体連合会の住江憲勇会長が、保険医協会会員らを対象にした保険証廃止の意識調査結果を紹介した。

 調査には診療所など4747件が回答した。マイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末を設置し、マイナ保険証の運用を開始している機関は26%、54%が準備中とした。一方で「端末を導入しない、できない」という回答も14%あった。導入しない理由を尋ねたところ「情報漏洩やセキュリティー対策が不安」「電子カルテなどの改修で多額の費用が発生する」との声が目立った。

 マイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末導入のために、多くの医療機関が「自院にとって、必要性がないものや必要性が低いにもかかわらず、自腹を切って購入させられている」との指摘をした。

 集会には、多くの市民や医療関係者に加え、日本共産党や、立憲民主党や社民党、無所属の国会議員らが参加した。

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 ちなみに、2022年11月17日にも、国会内で、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナカードに一本化する政府方針、マイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末の医療機関などへの設置義務化をめぐり、医療従事者や弁護士らの団体が反対集会を開催している。

 この集会でも、法律上は任意のはずのマイナカード取得を強制することにつながり、「乱暴だ」「国会で徹底審議すべきだ」といった声が相次いだ。

 主催者側によると、会場とオンラインを合わせて約400人が参加した。インターネット経由などで集めた反対の署名が13万筆を超えたことも報告された。

 全国保険医団体連合会の住江憲勇会長は「政府の強引な進め方は、民主主義の観点から到底許されない」と訴えた。

 マイナ保険証資格確認オンラインシステム/顔認証+背番号カード式自動改札システムは、患者の移動の自由を常時監視するもので、憲法違反だ。

2022年(令和4年)9月27日 日本弁護士連合会小林元治会長 「マイナ保険証」取得の事実上の強制に反対する会長声明

「マイナ保険証」取得の事実上の強制に反対する会長声明

本年6月7日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)」を閣議決定し、オンラインによる資格確認について、「保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付ける」こと、及び、マイナンバーカード(個人番号カード)に健康保険証機能を組み込んだいわゆる「マイナ保険証」の普及のため、「2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ」、従来型「保険証の原則廃止を目指す」方針を定めた。

また、本年8月10日、厚生労働省は「マイナ保険証」を普及させるため、同年10月からマイナ保険証に対応した医療機関では、従来型保険証を使うよりもマイナ保険証を使う方が患者負担額が安くなるように診療報酬を改定すると決めた。

これは、本年4月から、マイナ保険証を使ったオンライン資格確認設備を導入した医療機関の診療報酬が加算され、マイナ保険証を利用した患者の負担が、従来型保険証を利用した患者の負担よりも重くなったことに対して、マイナンバーカードの普及を阻害するとして、政府内部からも批判が高まったため、短期間での見直しを行ったものである。

さらに政府は、本年も、1.8兆円もの予算を組み、本年12月末日までのマイナンバーカード取得者で、マイナ保険証としての利用申込みを行った者に対し7500円分の高率ポイントを付与する等のキャンペーンを行っている。

当連合会は、2021年5月7日、「 個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」を公表した。そこでは、「特に、個人番号カードの裏面に記載されている個人番号は、悉皆性、唯一無二性を持ち、原則生涯不変の個人識別情報である」から、同番号が「不正利用されれば、個人データが名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険がある」ことを指摘し、現在の仕様の「個人番号カードは、住基カード等に比べて、プライバシー保護の観点が著しく後退していると言わざるを得ない」とした。そして、「個人番号制度は、あらゆる個人情報の国家による一元管理を可能とする制度となり、監視社会化をもたらすおそれ」があることも指摘した。その上で、同カードの取得は、本人が利便性と危険性を利益衡量して決めるという番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)第17条第1項の申請主義(任意取得の原則)の趣旨に鑑みて、?同カードに健康保険証機能など、一体化する必要性の低い他制度機能を組み込んだり、?同カードの取得者に高率のポイントを付与するという制度目的と関係のない利益誘導を行ったりすることなどの普及策は、「全国民が現行の個人番号カードを使用せざるを得ない状況に追い込むものであり、任意取得の原則に反するものであるから、速やかに中止ないし抜本的な見直しをする」よう求めた。

また、当連合会は、2021年9月16日、「 行政及び民間等で利用される顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」を公表した。そこでは、顔認証システムによるプライバシー侵害の大きさに鑑み、「医療機関受付での個人番号カードを用いた顔認証システムの利用」及び「個人番号カードを健康保険証、運転免許証等と紐付けることにより顔認証データの利用を著しく拡大させ、顔認証システムの利用範囲を拡大させること」を中止するよう求めた。

今般行われる従来型保険証の原則廃止、診療報酬の見直し、高額のポイント付与の一連の政策は、当連合会が意見書において危惧し警鐘を鳴らした問題をそのままに実現化し、助長するものである。すなわち、診療報酬の見直しや高額のポイント付与は、同カードを取得しない者に不合理な経済的不利益を与えるなどして、マイナ保険証に誘導し、その原則化を図るものと言える。その先には、従来型保険証の原則廃止が想定されているのであり、「国民皆保険制度」を採用する我が国では、全国民に対してマイナンバーカードの取得を強制するのに等しいのであって、番号法の申請主義(任意取得の原則)に反し、マイナンバーカードの取得を事実上強制しようとするものにほかならない。これは、2021年5月7日の意見書の趣旨に反することは明らかである。

同時に、マイナ保険証については、その利用時に顔認証システムの利用を事実上強制することになり、2021年9月16日の意見書の趣旨にも反する。

よって、当連合会としては、マイナンバーカードをマイナ保険証とする今般の一連の政策について、反対するとともに、速やかな見直しを求めるものである。

2022年(令和4年)9月27日 日本弁護士連合会 会長 小林 元治