2025/04/06

トランプ2.0政権の「相互関税」、「鎖国政策」と世界経済の行方

税は足の速い分野である。それにしても、トランプ2.0[第2次]政権の課税政策の回転速度ははやすぎる。投機ビジネスが大好きなトランプ大統領にはふつうの速度なのかも知れないのだが・・・。

トランプ大統領は、3月初めに自動車(25%)など「品目別課税」や、中国(10%+10%)・カナダ/メキシコ(25%)をターゲットにした「国別関税」を公表した。世界経済の大揺れの始まりである。

続いて、トランプ大統領は、4月2日(日本時間3日)に「相互関税」プランを公表した。トランプ「相殺関税」の驚くような厳しい内容に、世界に激震が走った。わが国の輸出依存型の企業の多くも、経営の行先が不透明になった。これまでのビジネスモデルが一夜にして陳腐化してしまったからだ。

日々激変するトランプ関税政策は、尋常なスピードではない。事なかれ主義で、ド素人相手に税金教育をし生活費を稼いでいる大半のノロマな大学教員には、キャッチアップ(ついていくの)が至難だ。

課税問題では「103万円の壁」程度の興味しかない政治家や小市民も同じだろう。どんな新たな課税問題が起きているのか理解するのに、もう少し時間が欲しいのではないか?

トランプ2.0政権が公表した「鎖国」、「相互関税(reciprocal tariffs)」実施プランは、次のとおりである。

《「相互関税(Reciprocal tariffs)」:(1)+(2)》

(1)全輸入一律10%関税 [10% ad valorem baseline tariff on imports of all foreign-origin goods] 相互関税対象国    かどうかを問わず、全輸入品に10%の一律基本関税[baseline tariff] イギリス、シンガポール、ブラジル、オーストラ  リア、ニュージーランド、トルコ、コロンビアなど約100か国が対象[4月5日発動]

(2)国別特定関税率 [country-specific tariff rates on imports from certain trading partners] 特定の貿易相手国に対 して同水準まで各国ごとに関税引上げる政策。トランプ大統領は、4月3日に対象国・地域リスト(180超)と税率を 公表。日本24%、韓国25%、中国34%、台湾32%、EU20%、インド26%、ベトナム46%、タイ37%、カンボジア 49%、バングラデシュ37%など約60か国が対象。なお、原則として、(2)には(1)の10%税率が含まれている。  また、自由貿易協定などを無視して課税する。 [4月9日発動]

アメリカに貿易赤字をもたらさない国(イギリスや豪など)には、(1)10%の基礎税率課税。そうでない国には、(2)国別に追加関税をかける・・・。で、日本は24%(10%+14%)。「相殺関税」とは、こうしたシナリオである。

また、中国は国別関税(20%)+相互関税(35%)、カナダ・メキシコは国別関税(25%)のみで相互関税は課されない。ロシアやベラルーシ、北朝鮮はリストにアップされていない。政策的配慮とされる。

前記の「相互関税」の税率は上限である。中国やカナダのように国力のある国、強い指導力ある国は、報復関税を臨むことも可能だ。しかし、「アメリカ1強」に抵抗できない諸国・地域は、今後アメリカとの2国間交渉[ディール]で引下げ可能になる。土下座外交が強いられる構図だ。

公表された国別税率はコシダメで、いい加減だ・・・。アメリカ通商代表部(USTR)が、算定数式をHPにアップしている。これによると、各国からの貿易赤字額を分母に、そして各国の輸入額を分子にして算出した比率(日本は46%)から割引した比率(日本は24%)を公表したようだ。

相互関税の算定の仕方は「科学的ではない」として、世界中からの批判が渦巻く。だが、トランプ政権は、「国別特定関税率はアバウト、フェイクでもいいじゃないか。アメリカが交渉カードを握れればそれでイイ!」。そんな戦術なのである。あくまでも「自国第一」なのである。だが、政府が右往左往するなか、わが国の企業によっては、それこそ死活問題なのである。

例を挙げて見てみよう。刃物を製造販売する会社が、わが国で製品を製造販売するとともに、ベトナムに進出し製品を生産し、アメリカに輸出しているとする。この会社は、わが国から製品をアメリカに輸出すると、アメリカでは製品には24%の「相互関税」が課される。一方、ベトナムからアメリカに輸出すると、46%の「相互関税」が課される。

中国に進出している場合はどうだろうか。中国には「国別関税」ですべての輸入品に20%の追加関税[3月4日発動]がかかる。これに中国の「相互関税」は34%がかかる。合わせると、54%になる。 

“内需”で生き残り?? これも、“人口減”で、大学を含め国内のあらゆる産業の行先が至難な常態を考えれば、望み薄である。消費者人口増につながらない過激な移民排斥、民族主義ファーストだけでは、この国はさらに衰退する。

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アメリカでは、通例、大統領は、毎年初めに、3大教書(3 Mager Presidential Messages)を連邦議会に送る。それらは、?一般教書(State of the Union Message )、?経済報告(Economic Report )、?予算教書(Budget Message )からなる。これらは一括して、大統領の「所信表明」とも言われる。

ところが、トランプ1.0政権では、税制改革(税革)案を含む完全な予算教書は5月23日に提出した。政権次第で、予算教書の提出時期はまちまちである。税制(減税)改革案を含むトランプ2.0政権の予算教書の議会提出はこれからである。多分、正式な予算教書の成立は、5月末近くになるのではないか。

17%の相殺関税を課されたイスラエルのネタニヤフ首相との4月7日の会談が、世界初のディールとなると報道されている。だが、トランプ大統領は、各国との相互関税の引下げディールには簡単に応じないのではないか?なぜならば、トランプの減税財源が、「相互関税」収入なわけだからだ。

いま各国とディールに入ったら、フェイクの税革案がばれてしまう。トランプ大統領は、聴くふりはするだろう。だが、税革(減税)法案が議会を通過するまでは、本格的な税率引下げディールは、難しいのではないか。

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「所得課税」中心のアメリカが、「関税」を主要財源に育てる・・・??明らかに時代錯誤ではないか? 

「高関税政策」「保護貿易主義」の台頭で第二次世界大戦を招いた。大戦後、アメリカは自由貿易主義の旗手としてGATT、続くWTOつくりの旗振りをしてきた。それが、いきなり、保護貿易主義に変身して、アメリカを関税の「壁」で囲むのだという。主要財源となる関税を取り立てる「対外歳入庁(ERS=External Revenue Service)」も創設するという。「破壊こそ建設なり!」で、「新常態(new normal)」をつくる?? イヤ、ただの「愚策」ではないか?

トランプ大統領の「相互関税」は、実質的にアメリカの消費者に対する「消費税」に相当すると見るのが妥当だろう。関税の名を偽装した“カラクリ”で、実質、単段階の間接税にあたるのではないか?

トランプ政権は、いろいろと理屈を並べる。「EUや日本は、VATの輸出ゼロ税率で輸出補助金を出して安価な製品をアメリカに輸出している。」、「結果、アメリカの国内産業は衰退する、貿易赤字は膨らむ・・・。一方、アメリカが輸出する製品には消費税(VAT)がかかり、高い非関税障「壁」が立ちはだかる・・・」「だから、アメリカも、『相互関税』という名の『壁』、単段階の消費税を導入する・・・。」 

学問的には「仕向地主義/消費地課税主義の間接税」をどう考えるかが問われている。もう一度、基礎から点検しないといけない。

「相互関税」は、世界のサプライチェーンを滅茶苦茶にしてしまう。早くストップして、WTO体制に復帰しないといけない。第3次世界大戦にならないように、知恵を絞らないといけない。

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わが国は、正直にいえば、対米追従、防衛ただ乗りを正当化できる「平和憲法」で、これまで繁栄してきた。「平和外交ファースト」は正道である。ただ、見方によっては、トランプ2.0政権の誕生で、対米追従が必ずしも“正論”とはいえなくなりつつある。いわば“言うだけ番長”でいられる“免罪符”のご利益が薄くなったともいえる。

いまや世界の勢力図をガラリと変える「力によるトランプ外交」が圧倒している。遺憾であるが、「ディール(取引)する価値のないような小国は捨て駒になれ!」のスタンスである。歴史の時計の針を 帝国主義時代まで巻き戻したような感じである。

わが国の現政権は、製品分野別(輸入車)関税や相互関税の適用除外を懇願する土下座外交、トランプ忖度外交で逃げ切ろうとしているようにも見える。閣僚が、「日本だけは例外扱いに!」とトランプ詣でをし、抜け駆けを狙う姿勢は何とも寂しい限りである。トランプ大王のパシリ(走り)をしているだけでは国際信用を失いかねない。「見て見ぬふりをする。自国さえよければいい。おまかせコース大好き。」とするスタンスは卒業しないといけない。

「高関税で脅され、アメリカの1つの州になれ!」とトランプ大王に脅されたらどうするであろうか。「御意のままに!」で、事なかれ主義に徹しようとするであろうか。「白旗ならぬ、赤旗を掲げて近隣の権威主義国家に屈服するよりはトランプ大王の方がまし!」とは考えてないと思うが・・・?

口先だけで「政権交代」を叫ぶ野党党首はどうだろうか?「アメリカの属国にはならない。こちらも報復関税で戦う!」で、カナダの新首相になったカーニー氏のようにふるまえる“であろうか? 歯切れのよいキャッチを考案し、その場限りの適当なことを「言うだけ番長」を卒業しないと、国民に見放される。

わが国の税革論議は、「コップの中の嵐」で、「103万円の壁」などで空騒ぎしている。それこそ、 “島国ファースト”、いや“鎖国”に近く、国際感覚は乏しい。平和ボケし、政治家の小粒さも目立つ。悲しいことに、今般の「相互関税」問題、 “関税戦争”では、まともに議論できる政治家がいるとは思えない。

皆で、「世界同時不況になるのでは?」などと悪い予言を重ねているだけではいけない。本当に「予言の自己成就(self-fulfilling prophecy) 」に進むかも知れないからだ。

私ども日本人は久しく、アメリカ民主主義を、完璧ではないけれども、自由や人権を謳歌できる好意的なモデルと見てきた。中国やロシアなどの専制主義モデルよりはまし、と見てきた。しかし、いまやトランプ2.0政権の出現で、アメリカンモデルは他国が信頼を寄せるには、あまりにも劣化し、壊れてしまっている。

いずれにしろ、これまでのような過度なアメリカ頼りで、軽々な言葉だけで平和の舵取りを稚拙に論じるのは反省しないといけない、と思う。

2025/03/17

少数与党政権は、納税者権利憲章(法)実現に向けた再チャレンジの好機

納税者の自発的納税協力に根差した申告納税制度の健全な発展には、納税者と課税庁の間を「ウイン・ウイン」の関係に構築しないといけない。

こうしたウイン・ウインの関係構築には、「納税者は義務主体であると同時に権利主体である」とするスタンダード(基準)が必須である。いまや西欧型民主主義が根付いて国々ではほぼ常識的なスタンダードである。

これらの諸国では、このスタンダードを保証するために、納税者権利憲章(法)/憲章(法)を制定しているわけである。加えて、課税庁の納税者サービス改善をねらいに、つまり「複雑な税務手続を納税者の目から見てわかり易い形でお知らせするため」 の課税庁のマニフェスト/保証書をアナウンス/配布しているわけである。

かつて、2010(平成22)年前後から、わが国でも、政権交代伴い、憲章(法)制定の機運が高まった。憲章(法)成立寸前までいった。しかし抵抗勢力を排除しきれなかった。「内なる敵」もいた。結果、納税者権利憲章(法)を制定・アナウンスは頓挫した。

財政当局や政党・政治家が、納税者権利憲章(法) 憲章(法)を制定・アナウンスすることに抵抗するのではあれば、それは、西欧型民主主義への挑戦と解してよいのではないか。

確かにいったん頓挫した官製の納税者権利憲章(法)の制定に向けた巻き返し運動は容易ではない。

しかし、2011(平成23)年10月11日に出された「復興増税大綱」(正式には「東日本大震災からの復興のための事業及びB型肝炎対策の財源等に係る税制改正大綱」)のなかで、「納税者権利憲章の策定等(「納税者権利憲章」の作成・公表、国税通則法の名称変更、同法の目的規定の改正)については、見送ることとする」としながらも、「政府は、国税に関する納税者の利益の保護に資するとともに、税務行政の適正かつ円滑な運営を確保する観点から、納税環境の整備に向け、引き続き検討を行うものとする。」と記している。

ただ、この記載においては、納税者の「権利」の文言が意図的に抜かれている。私たち市民/納税者、税務の専門職には、相手が弱いと見れば、降参後もパンチを加えねじ伏せようとする、このシナリオの下書きをした財務官僚の冷酷さが透けて見えてくる。

いずれにしろ、わが国において納税者の「権利利益」を確固たるものにするための国会・政府に納税者権利憲章(法)の制定を求めることは優先的な政治課題である状況には変わりはない。

とりわけ2025年2月18日に立憲民主党(立民)が国会に提出した納税者権利憲章(法)を含む「所得税法等の改正法修正案」および2月21日に、衆院予算委員会での立民の階猛(しな・たけし)議員による修正案を関する質疑報告は、憲章(法)の必要性を改めて再認識させてくれた。

自公連立政権が弱体化する昨今、いまが国会・政府に納税者権利憲章(法)制定を求める好機ではないか。納税者団体や税務の専門職界には、国会を使いこなす作法をしっかり学び、再チャレンジが求められている。

そのためには、まず、法的拘束力あり、既存の法律(国通法)に納税者権利憲章規定を盛り込むタイプ+課税庁がその規定に基づきわかりやすい文体にしてアナウンスするタイプの納税者権利憲章(法)/憲章(法)の成立を議員立法で目指す意思を確認しないといけない。

2025年2月18日に立民が提出した憲章(法)案は、完全なものではない。しかし、納税者支援調整官の法制化が伴えば、わが国で納税者は、名実ともに、単なる「義務」主体ではなく、「権利」主体でもあるとの法認につながる。

課税庁は、「納税者は義務主体」であるとの「文化」を変え、税務行政の現場でも「納税者は権利主体」として丁重な対応をしないといけなくなる。

憲章(法)の1.0案を成立させ、“納税者の権利”の「橋頭保」、「法的足場」を築く。そして、さらに最適な納税者権利憲章2.0、3.0に向けて、民間機関がつくった納税者権利憲章に盛られたアイディアを注入し、切磋琢磨、改良を重ねていくのも一案ではないか。

原理主義的完璧思考はいったん脇に置いて、結果をあげられる賢い戦術、「ディール(取引)」の心得が要る。          

2025/02/07

「アテンションエコノミー」とSNS推し活選挙対策

自民に立憲、国民が加わり、SNS(ソーシャルメディア)選挙対策に向けて協議を始めた。与野党協議でのターゲットは多岐にわたる。選挙ポスターの品位保持や「推し活選挙」、「二馬力選挙」、フェイク情報の拡散、さらにはSNNの「アテンションエコノミー(attention economy)」も問われた。

「アテンションエコノミー」の言葉をはじめて耳にする人も少なくないかもしれない。「注目されると収入に結び付く」。つまり、動画などの生成回数が増えるほど収入になる、SNS特有のビジネスモデルである。このビジネスモデル自体が問題なわけではない。公職選挙で、SNSに露出して、投稿、「バズる(広める)」とカネになる。これが公職選挙法(公選法)違反になるのではないかということである。

で、XやYou Tube、TikTokなどSNSの運営事業者に公選法に違反する投稿者への支払をストップさせる仕組みを入れようというのである。加えて、この種の投稿で収入を得た人に公選法違反を問おうというのである。

もちろん、「法の支配」は尊重されないといけない。ただ、選挙関連情報の有償拡散かどうかの的確な判断基準がいる。そうした基準を、ガイドラインなど「ソフトロー」でアナウンスするのには、大きな疑問符が付く。逆に「法に支配」に対する脅威になるのではないか?加えて、「言論の自由」、「表現の自由」などとのバランスを失してはならない。

私たち有権者は、「検閲」、「有償」などのキーワード別に、議員が仕上げるSNS選挙対策案を注意深くチェックしないといけない。

2025/01/18

賞味期限のある流行りの「SNS推し活政治」と「文書保存」の重み

1月20日、劇場型政治大好きの「またトラ」時代が始まる。SNS(ソーシャルネットワーク)、ネットを使った過激な言動とフェイク(ニセ)情報を拡散する“今総統”の再登場である。

だが、幕開け前から、この疲れを知らないモンスターの再登場に疲れを感じる人も少なくないはずだ。

歴史は繰り返す。民衆は移り気である。SNSで世論を喚起するポピュリズム、「推し活政治(political fandom)」に押し流される。かつても、民主主義よりファシズムを歓迎した時代があった。

理性で制御しにくい政治環境にあるのは確かだ。しかし、いずれ潮目が変わるのではないか。

ネットやSNSにアップされた記事だけを読む人が増えている。確かにネットやSNSは便利だ。早い、安いで、ファストフードに似たところがある。ただ、ジャンクフードに食らいついているのと同じで、体や精神に良くない、という見方もある

ネットやSNSの記事は、サービスが終わると永遠に消え失せてしまう。SNSを使った「推し活政治」も、ある意味では、同じ運命にある。賞味期限があり、即物的だからだ。

PIJは、「ネット」と「文書」の両面で、プライバシー保護に関する政策提言を続けている。文書で残すのにはカネがかかる。だが、文書にすると、永続的に残すことも可能だ。

しばしば新たな古文書が発掘される。幕末維新から大日本帝国憲法発布までは20年あまり。その間に、民権運動家などがさまざまな民衆憲法草案を仕上げた。当時、民衆憲法つくりがブームだったといえる。そうした草案の1つが、偶然、民家から発見されたりしている。これは、ひとえに、文書万能時代のプラスの遺産といえる。

CNNニューズは、文書でも発行している。国会図書館にも貯蔵をお願いしている(国立国会図書館書誌ID000008916139)。

市民主導のプライバシー保護活動の軌跡を残すには、「文書で残すこと」の重みを忘れてはならない。

2025/01/16

トランプ時期大統領が新設する「対外歳入庁(ERS)」とは

トランプ氏は、大統領選で、中国製品に60%以上の関税を課す。それ以外の地域には、10%〜20%の関税を課すと主張してきた。

 トランプ氏は、大統領就任を前にして、1月14日、SNSで次のような発信をした。

「アメリカは、あまりにも長い間、自分らが払った税金で、経済を支え、世界の繁栄に貢献してきた。しかし、いまやチェンジが必要である。我々アメリカ人が税金を払うのではなく、我々と取引をしている人たちに公正な負担、税金(関税)を支払ってもらう時がきた。」

≪トランプ提案を読み解く》

・新たに「対外歳入庁(ERS=External Revenue Service)」を創設し、ERSが、関税や個別消費税に加え、外国源泉の所得を徴収する。

・現在、連邦は、内国歳入庁(IRS=Internal Revenue Service)が徴収している。しかし、あまりにも長い間、IRSに税の徴収を依存してきた。

・現在、関税は、合衆国関税・国境警備局(CBP=U.S. Customs and Border Protection agency)が徴収している。

《「新たに創設される対外歳入庁(ERS=External Revenue Service)が、関税や個別消費税に加え、外国源泉の所   得を徴収する。」とは、どういうことか?》

トランプ氏は、新ERS/対外歳入庁は、現在のCBPや非居住者(外国法人や個人非居住者)から所得税を徴収しているIRSの権限を代替するのかどうかについてはふれなかった。新たな機関の創設は、「超小さな政府」を目指すイーロン・マスク氏の非公式な「政府効率化省(DOGE=Department of Government Efficiency)」構想とぶつかるからかもしれない。調整ができていないのかもしれない。

いずれにしろ、大統領令では、新たなERS/対外歳入庁の創設は不可能である。議会のよる立法が必要である。

 連邦議会上院歳入委員会に所属するロン・ワイデン(Ron Wyden)議員[民主党所属]は、トランプ案を厳しく批判した。

 「トランプ案は、もう一回富裕層に税の施しをする一方で、アメリカの生活者や零細企業に莫大なインフレ負担として跳ね返ってくるという事実を隠す、まったくバカげた偽装プランにほかならない。」

輸入業者は、関税の上乗せ分を国内価格に転嫁するのは当り前。当然、国民の負担は大きくなる。素人にもわかることではないか。ツケを払わされるのは、結局、生活者である。

他の識者も軒並みにトランプの高関税政策を批判する。「国内の雇用を守るよりは、生活者が購入する必需品の価格を押し上げる。中小企業者が生業をするのに購入する原材料の購入価格を押し上げる。経済が回らなくなる近視眼的な政策である。」と。

2025/01/09

トランプ復活、またトラ、で世界に広がるニヒリズム/虚無主義

2025年が幕を開けた。SNS利用拡大が、世界中で物議をかもしている。選挙に負けた腹いせにSNSで議会乱入を煽ったことはゆるされてはならない。再選で、“またトラ”が正義の味方となる?そして、すべてがチャラになる?これでは、「法の支配」に根差した民主主義は崩壊してしまう。

「ポスト真実政治(post-truth politics)」、つまり、客観的真実より、個人の主張や感情が世論を形成、政治を支配する風潮が強まっているということだろう。

いち早く「破壊こそ建設なり」の言動やフェイクを拡散し他国や他者をいたぶる“またトラ”に抱きつくこと。これが「正義(justice)」のような風潮がグローバルに広がる。

「抱きつき願望者」は、わが国の首相だけではない。アメリカの“カオス大好き”のイーロン・マスク氏もその1人だ。札束で世界最大規模のSNSであるX(旧ツイッター)を手に入れた。そして、国境のないネットを使って世界政治をあおる。“またトラ”とタッグを組み、「資本の論理ファースト」のキャッチでネット行脚し、デジタル独裁者の顔を露にしてきている。帝国主義的野望を露にしたあおり言動は、ロシアのプーチン氏と重なる。

SNSの大手Meta(メタ)のトップ、マーク・ザッカーバーグCEOも、抱きつき組の1人だ。再選後、白旗を掲げ“またトラ”に急接近。そして、Meta(メタ)が運営するFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)などSNSの虚偽情報の判別をする「ファクトチェック」をアメリカでは止めた。代わりに、ユーザー同士が誤解を招く投稿などを補足し合う「コミュニティーノート」方式導入に舵を切った。表向きは「言論の自由」重視の原点に回帰するため、というのだが?

EU(欧州連合)は、Meta(メタ)に警告した。「ファクトチェック廃止はEUの2022年デジタルサービス法(Digital Services Act/Regulation 2022)にぶつかる。」と。対米追従は当り前のわが国はどうだろうか。EUのように、Meta(メタ)に物言いができるだろうか?

ポピュリズム(大衆迎合主義)が世界中に拡散し、これまでの価値観が通用しない。ネット空間では当り前のようにフェイク(ニセ情報)が徘徊する。これでは、世界中がニヒリズム/虚無主義の“蟻地獄”に落ちるのではないか。

「アメリカ独り勝ちは放置できない!」「倫理、コモンセンス、民主主義的な価値観が通用しない人間に対する無原則な寛容は、無秩序につながる!」、「民主的な言論の自由を守るには不寛容、公的規制強化、劇薬もやむなし!」の声が高まる。

2024/12/31

いわゆる「推し活」(ファンダム)政治(選挙)の行方 〜与党過半数割れ時代の政策実現の新たな作法

PIJの運営委員でもある菊池純氏は、東京税理士会所属の税理士である。同氏が代表を務める「インボイス制度の廃止を求める税理士の会(インボイスNOの会)」は、先駆的な運動をはじめた。X(エックス)[old Twitter/旧ツィッター]やホームページ(HP)を駆使し、インボイス制度廃止を働きかけはじめたのである。

同氏は、デジタル大嫌いのスタンスであったように記憶している。ところが、いつの間にか大きく変身した。いや本人は自覚する間もなく、デジタル軍団に取り込まれたのかも知れない。

いずれにしろ、インボイスNOの会は、フィクサーとして君臨してきた既存のメディア、伝統メディア(「オールドメディア/ legacy media」)に頼ってはいない。運動を、SNSを使った、いわゆる「推し活」戦略にエスカレートさせたのである。

インボイスNOの会は、次のように、公開質問状や賛同者を募り、先の衆院選では、インボイス廃止に向けた投票行動を促している(https://x.com/taxlawyer2022)。

「インボイス制度の廃止を求める税理士の会は、衆議院選挙に向け公開質問状を 10月8日各政党へ送付しました。10月17日までに回答を求めたところ、6つの 党より回答がありました。到着順にここに公開します。 各政党のインボイスに対する方針がよくわかります。投票行動に生かして行きましょう。」

■「推し活」政治(選挙)とは何か?

そもそも「推し活(おしかつ)」とは、自分のイチオシを決めて、応援する活動をさす。語源は、熱狂的なアイドルファンが自分の好きなアイドルを「推し」と呼んだことが始まりである。英語では「ファンダム/fandom=fan + kingdom」。造語だ。

政治(選挙)の世界でも推し活がエスカレートしている。「推し活」政治(選挙)の今後は不透明であるが。 いまや、いわゆる「推し活(ファンダム/fandom)」が政治(選挙)を動かす時世である。「推し活」政治(選挙)の成功体験としては、24年7月の東京都知事選で、SNSを駆使した無所属新人が2位に食い込んだ。

10月の衆院選で、SNSを使った国民民主の「103万円の壁」、「手取りを増やそう」の政治キャンペーンが話題をさらった。玉木個人商店主の不倫問題で揺れたが、強豪相手に粘り勝ちを狙っている。

それから、「2馬力選挙」と揶揄される兵庫県知事選も「推し活」政治(選挙)とされる。

DX化(デジタル・トランスフォーメーション)に伴い、政党・政治組織は、リアル(現実)空間になくとも、ネット(仮想)空間にも構築できる時代になったのである。SNSの使い方がうまくないと、伝統政党でも、新興の政党や政治組織に大負けする、消滅しかねない。そんな時代に突入したのだ。

SNS民主主義が流行りだ。共産党(https://www.jcp.or.jp/oshikatu/)を含め、各政党や政治家は、いわゆる「推し活」(ファンダム)政治(選挙)に熱をあげている。自民党は、年末に、選挙関連サイトの運営会社代表らを講師役に招き、所属議員向けのオンラインセミナーを開催した。公明党は新たなユーチューブ番組を始める。日本維新の会や共産党もそれぞれ、新たに専門組織を設けた。

政党・政治運動体は、リアル空間のみならず、ネット空間でも、大競争時代に突入したのである。今後、ますます支持政党なしの有権者の票の分捕り合戦が激化していくだろう。

■「インボイスNOの会」は悔しさをバネに!

インボイスNOの会は、24年10月17日時点で、「推し活」投稿には127万ものPV(閲覧)があったという。また、各政党へのアンケート回答は圧倒的にインボイス制度「廃止賛成」だった、と成果を強調した。

少数与党政治の下では、野党でも、国会の政党間での「政策協議」で、政策(議員立法)を実現できる可能性が高まる。これまで「言うだけ番長」に徹してきた少数野党でも、政策実現のチャンスがめぐってくる。

税理士の平均年齢は60歳を超える。「デジタルデバイド(情報技術格差)」が問われる年代である。インボイスNOの会の大部分のPV(閲覧)は、非税理士であったのではないか?ということは、中小・零細事業者のみならず、多くの生活者もインボイス制度廃止に賛成したと思われる。

にもかかわらず、インボイス制度廃止法案は、「国対」(国会対策委員会)で議論されないばかりか、国会の政党間での「政策協議」のそじょうに乗ることもなかった。

インボインボイス制度廃止には「旬」がある。だらだら運動をやっていると、”毒蜘蛛の糸にぐるぐる巻きにされ”、"定着”し、"身動き“とれなくなってしまう。

タコつぼ化してしまった「マイナンバー廃止」運動が教訓だ。「共通番号いらない会」は、役人の懐柔には乗らない、ぶれない、戦略もあった。「言うだけ番長」政党・議員との連携もできた。だが、マイナンバー廃止法案を「国対」にあげることはできなかった。

そこで、運動の戦術を、マイナ健康保険証、つまりマイナIDカードの事実上の義務化への抵抗に舵を切った。しかし、ターゲットは、12桁のリアルID(個人番号/マイナンバー)だけ。カードに格納されている「マイナデジタルID(JPKI/公開鍵式ID)」には触れずじまい。デジタルIDへの知見が乏しすぎる。ガラパゴス化し、抜け殻組織になってしまった。残念である。インボイスNOの会は、同じ轍を踏んではならない。

インボイスNOの会、ロビイング(議員立法の陳情/政党・議員への働きかけ)「戦略」はよかった。だが、「戦術」に今一つ工夫が必要だったのかも知れない。つまり、少数与党政権のもとでの政策実現のための推し活戦術の中身が今一つだったのではないか? 

インボイスNOの会の菊池代表が、親しみやすい?インボイスNOおじさん“になるのも一案だ。いわば「インボイスNOのデジタル花さかじいさん」になるわけだ。そして、You-cube (ユーチューブ)や、Meta(メタ/old Facebook(旧フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)のような動画配信系のSNSで露出して、「バズる(広める)」。わかりやすい「インボイスNOれんげきょう!!」のキャッチで、ネット辻説法をする。こんな工夫があってよい。

菊池氏は、書いた文章の分かりやすさは今一つで、時間にもルーズの自由人(人は誰しも完全ではない!)。だが、正義感は人一倍強く、ぶれない。粘り強さもある。しかも露出大好きのタイプ。インボイス制度廃止の「推し活」行脚にはうってつけの人材だ。「白旗大嫌い!」「当たって砕けろ!」の意気込みで、零細事業者をはじめとした経済的なひ弱な納税者に味方して、大健闘を期待したい。

ただ、”中途半端”な戦術は運動を泥沼化、蟻地獄化しかねない。商売する人たちはもちろんのこと、サラリーマンや主婦、学生、年金生活者など幅広い庶民が「感動」「耳にに残る」キャッチが必須だ。でないと、ギャラリーは聞いてもすぐ忘れる。そして運動も息切れする。菊池氏を、孤島で「インボイスNO!」の赤旗を掲げる裸のじいさんにしかねない。

それに、ロビイングの際には、働きかける政党・議員を、自分の政治信条でえり好みしないことがコツである。大衆に奉仕するスタンス堅持、「言うだけ番長」の政党・議員を見抜ける目利きになること、が大事である。

どんな政策でも、「推し活」でSNSのそじょうに乗せ大衆動員することができれば、しめたものである。議員立法/プログラム法のロビイング(民間団体からの陳情/政党・議員への働きかけ)を請ければ、政党・議員は、それを完全には無視できまい。

悔しさをバネに、強靭な戦術で、しかし慎重に、一発逆転を狙って欲しい。

■混迷を極める「公正で自由な選挙」

もちろん、SNSなどの「ニューメディア」を使った「推し活」政治やロビイングには功罪(毒と効用)がある。ポピュリズム(大衆迎合主義)、マインドコントロール(熱狂)、自由・公正な選挙、フェイク誘導など、解決されなければならない課題も多い。

シルバー民主主義を壊し、若者主体の民主主主義をつくるには「ニューメディア」の出番?? 「破壊こそ建設なり?」。本当だろうか? 今や多くの高齢者がSNSを使いこなす。今の若者もいずれ高齢者の仲間入りをする。SNSを、高齢者と若者の「分断」のツールに使う作法は、いずれ賞味期限切れになるはずだ。

「民主主義の寛容は、トランプ氏のような権威主義丸出しの不寛容に無力なこと」は明らかである。選挙に負けた腹いせにSNSで議会乱入を煽ったことはゆるされてはならない。また、再選で、すべてがチャラになるのでは、「法の支配」に根差した民主主義は崩壊してしまう。”またトラ“で、アメリカ民主主義の修復には、少なくとも4年、必要になった。

兵庫県知事選では、当選を目指さない候補が他人のプライバシーを深く傷つける情報を流布し、他の候補を支援した。いわゆる「2馬力選挙」である。SNSでフェイク情報をネットに垂れ流すのを即座にストップかけるのは至難である。SNSのプラットフォーマーは「疑わしきは削除せず」のスタンスであるからである。また、司法に救済を求めても、膨大なテマ・ヒマがかかる。「法の支配」を求める側が泣き寝入りせざるを得ない構図にある。

「無原則な寛容を捨てて、公的規制に舵を切るべきである。」との声が強まっている。もちろん、公選法との整合性を点検することは大事である。だが、放送法のような縛りで国家が「ニューメディア」を統制・監視するのには、大きな疑問符がつく。憲法が保障する「言論の自由」にとり、危険だからである。わが国が、中国のようなデータ監視国家・デジタル権威国家に変貌しかねないからである。 

■「オールドメディア」の新たな役割

東京都議選、参院選をはじめとしたこれからの選挙での動きが注目される。既存の政党と新興政党との間で、「ニューメディア」を使った「推し活」選挙で、集票合戦を繰り広げるのではないか。

「ニューメディア」は、大衆を誘導するために、プライバシーを傷つけ、フェイク情報を垂れ流しているケースも少なくない。ネットで大衆動員して「オールドメディア」たたき、真実潰しにも使われている。

「オールドメディア」は、概して「調査報道(investigative journalism)」に強い。放送法で縛られていることをプラスイメージに使いこなす高度のスキルがいる。勇気を出して、「ニューメディア」が真実を報道しているかどうかを精査・追求しないといけない。萎縮しないことが大事だ。

ネット空間は、無償/タダの「ニューメディア」の独断場だ。有償/強制加入のNHKのネット進出の舵取りは至難だ。民放を超える若者向けの娯楽番組や庶民目線のワイドショーの拡大路線、過去帳番組のネット配信路線もわからないでもない。しかし、こうしたビジネスモデルが、逆に無償/タダの民放との矛盾を広げるのではないか。

今は軌道を失してしまったが、「NHKから国民を守る党」の当初のスタンスは理解できる。カルトから解脱(げだつ)できなかった政党・政治団体の「推し活」選挙モデルの検証にとっても大事である。学びには必須事例だ。

「オールドメディア」に1つである「新聞」もその存在感が問われている。全面広告のような資源の無駄遣いは、止めないといけない。大半の読者は、SDGs報道をしながら「ゴミ」を増産する姿勢に嫌悪している。環境への負荷が大きすぎるからだ。

総花的な報道姿勢の改善も要る。膨れた社員の雇用対策も大事ではある。しかし、経済紙は経済に特化すべきだ。価格を下げ、ネット攻勢、市場競争に挑むべきだ。でないと、「ニューメディア」に負ける。無償と有償では、そもそも勝負にならないからだ。「コンテンツ」で勝負できれば別だが。

対岸のアメリカでは、New York Timesが唯一、新聞のデジタル化の成功例とされる。だが、わが国の新聞が「ニューメディア」に大胆に変身できるかはどうかは行先不透明である。

「Japan as No.1」とちやほやされた時代は遠い昔のことになりつつある。

よいお年を!!

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