2011/04/14

菅政権、危ない「コンピュータ監視法案」へゴーサイン

菅政権は、各界から問題点が指摘されてきたウイルス作成罪(正式には「不正指令電磁的記録作成罪」)を盛り込んだ「コンピュータ監視法案」(通称)を、震災のドサクサに紛れて、閣議決定しました。

かねてから「共謀罪」を盛り込んだ法案(正式名称は「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」)の是非が問題になっています。この共謀罪法案には、民主党も野党時代に反対してきました。この共謀罪と連動するいくつもの刑法、刑事訴訟法の改正が盛り込まれています。「コンピュータ監視法(案)」と呼んでいるのは、このうちの一つで、警察など捜査当局が必要あると考えたときに、裁判所の令状なしに、プロバイダーなどに対して、特定の人の「通信履歴(ログ)の保全」、一定期間消去せずに保存するよう協力要請できるようにしようと言う内容の法案です。

この法案(法律)は、一般には、現在、コンピュータ・ウイルスを作って他人に迷惑をかけた人を取り締まる法律がないため器物損壊罪とかで立件していますが、こうした状況を改善するのが狙いとか、説明されています。

しかし、この法律が成立すれば、捜査当局が裁判所の捜査令状なしで、プロバイダーに対して特定に利用者の「通信履歴(ログ)」つまり、発信者・送信先・日時といったメールのヘッダー部分についての「保全」を要請できるようになります。

結果として、警察・検察は令状なしに自由に誰がどのようなサイトにアクセスしたかや、メール送受信の記録やメールの内容も自由に監視できることになります。 現在ある令状を請求する仕組みでは、曲がりなりにも裁判所のチェックが入ります。(令状主義が形がい化している事実も否定てきませんが・・・)

ところが、このコンピュータ監視法では、令状主義の歯止めなしに捜査機関がメール送受信の記録やメールの内容を自由に監視できることになります。データを保存する「一定期間」は60日以内になるようですが、その間に令状を取れば履歴を差し押さえられます。

捜査当局にとっては、犯罪の根拠は不十分だけれど「この人物が怪しい」と読んだ段階で関係者を含めて幅広く履歴の保存を求め、保全期間を利用して令状請求に必要な犯罪の資料を集めていける仕組みとして機能することになります。それに、プロバイダーにデータの保全要請があったことは、本人には知らされない仕組みになっています。

捜査当局が通信傍受を行なう場合は組織犯罪に限るなど厳しい制限があります。国会への報告も義務づけられています。 ところが、このコンピュータ監視法では、こうした面倒な手続が要らない、やろうと思えば誰のネット通信記録でも簡単に入手できる危ない法律です。まさに、国民の人権、プライバシーを風前の灯にしてしまいそうな性格の法律です。

メール友達が捜査当局のターゲットになり、知らないうちに自分のメールが「監視」されることになるかも知れないわけです。コンピュータ監視法は、パソコンや携帯でメールを利用している人たちすべてに関係がある法律なわけです。

それから、プロバイダーやサイト管理者の企業などには「協力要請」、「協力義務」が課されますから、保全要請自体を実質的な強制捜査とみることもできます。わが国では、通信履歴も『通信の秘密の保障』の対象になる、と解されています。したがって、憲法21条を侵害するおそれが強いわけです。

さらに、メールを差し押さえる際に導入される「リモート・アクセス」と呼ばれる方法にも、大きな問題があります。

この方法では、1台の携帯電話に対する差押令状さえ取れば、携帯会社のセンターに保存されていて、その端末から呼び出し可能なメールや留守番電話の録音も一緒に差し押さえできることになります。つまり、1台のパソコンに関する令状で、サーバーに保存されたメールなどのデータを集約的に差し押さえられることになります。LANでつながっているサーバーなども対象になります。

現行では、サーバーごとに令状を取っているわけです。しかし、この法律では、本社のパソコンへの令状があれば、支店など同一の企業内のあらゆるデータの差押えができることになるのではないでしょうか。これでは、捜索する場所を特定して令状に明示するように求めた憲法35条に違反すると解されます。令状では、少なくとも、差し押さえられる対象の範囲をあらかじめ限定しておく必要があるからです。

さらに、ウイルス作成罪(正式には「不正指令電磁的記録作成罪」)自体も大きな問題をはらんでします。インターネットにつながっていないパソコンでプログラムを「作っただけ」でも犯罪が成立する法的仕組みになっています。したがって、いまだウイルスかどうか分からない段階で、かなり捜査当局の勝手気ままでこの法律が適用される恐れがあるわけです。ウイルスを使用せずに危険を発生させていなくても「3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」というのは刑罰としては重すぎます。

このコンピュータ監視法案は、2004年、2005年にも国会に提出されました。しかし、「共謀罪」とセットになっていたため、反対が強く一緒に廃案になりました。今回は、反対の強い共謀罪と切り離し、「ウイルス作成罪」を前面に打ち出して成立を目指そうというわけです。

わが国は、2001年にサイバー犯罪条約に署名しました。「共謀罪」を盛り込んだ法案やコンピュータ監視法案は、この条約を批准するための国内法の整備の一環として必要、というのが政府の理屈です。

しかし、わが国の憲法のもとで、こうした条約を批准し、そのまま国内法の盛り込むことがゆるされるのかどうかは、慎重に考える必要があります。条約自体が、人権侵害のおそれが強く、警察や検察の権限を一方的に強化することは、監視社会現象を強める結果を招くだけだからです。

また、今回のコンピュータ監視法案が可決されれば、もともと一体だった共謀罪の成立に向けた動きが積極化するに違いありません。

GPSとかIT技術を使ってヒトやクルマなどの動きを監視する、街中や至る施設に監視カメラを設置し監視する、国民に共通番号(背番号)を刺青しIDカード(登録証)を持たせて監視する、さらにはコンピュータ監視法を制定して令状なしにメール監視を監視する・・・・・これで「安全」、「安心」とか言って、強力な監視社会化へ走り続ける民主政権。

しかし、いったん原発事故が起きると、“想定外”とか言って、後手、後手・・・「安心」「安全」はまったくの神話・・・・これがわが国の現実なわけです。

国民の「安全」、「安心」を考える場合の優先順位を履き違えてしまっているのではないか、と思います。

江田法相は、1月25日の記者会見で、法案について問われ、「ちょっと勉強不足で何ともお答えできるほどの私の見解を持っておりません」との答をしました(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00117.html)。ブレブレの民主党政権って、何??

PIJ事務局