2009/09/03

名古屋市住基ネット市民アンケート結果公表、市長コメント

名古屋市は、9月1日、全国民に11けたの住民票コード(番号)をつけて運用する「住民基本台帳ネットについての市民アンケート」の結果をまとめ、公表した。

このアンケートは、市長選時のマニュフェストに基づき、河村たかし市長の指示で行ったもの。市長は、国会議員時代に住基ネット反対の立場だった。

市長は、「今回の結果で、切断する、切断しないの判断をするものではない」と説明。結論は、先送りにされたかたちだ。

【名古屋市住基ネットアンケート結果】

《住基コードについて》

「自分の住民票にコードが記載されたことを知っているか」との質問に対し、

【回答結果】 ・「知っている」と答えた人は半数ほど(50.3%)。 ・一方、「知らない」という回答も半数近くある(46.6%)。関心の薄さが浮かび上がった。

《住基カードについて》

「住基カードを知っているか」の質問に対し、

【回答結果】 ・内容は知らない(56.5%)・全く知らない(20.4%)が7割以上。 ・住基カード持っていない市民も約9割(89.2%)。 ・カードを持っている市民は(8.1%、過去に持った人1.3%を含めると)、1割弱(9%)程度。そのうち、住基カードが役立っているという市民は1割程度(10.9%)。 ・逆に、カードを持っている市民で、役立っていないと思う人は(どちらかといえば役立っていないという人16.3%を含め)5割(53%)を超えた。

《住基ネットを切断した場合》

住基ネット導入時に、国は「各種行政申請時に住民票の添付が不要になる」と宣伝した。ところが、現在、住基ネットは今や「年金ネット」と揶揄されるほど、利用範囲が限定されている。(全国的にみても、住基ネットの使い途、99.5%は年金事務関係です。他に大きな使い途がないのが現状。)

(1)そこで、アンケートでは、住基ネットを切断した場合、年金の現況届が郵送になる“負担”になるけどどうかを質問。

【回答結果】 年金の現況届出に毎年郵送代50円かかることに、“負担を感じるという人”は、44.5%。これに対して、“負担を感じない(25.1%)+わからない(29.4%)”とで、54.5%を超えた。

(2)それから、5年か10年に一度必要になる、パスポート申請のときに、住基ネットを切断した場合、住民票に写しを取る必要があるけど、“負担”になるかどうかを質問。

【回答結果】 パスポート申請時に手数料300円払い住民票をとり、申請場所まで持参することについて、“負担を感じるという人”が46.1%。しかし、“負担感じない(32.0%)+わからない(20.6%)”は、5割(52.%)を超えた。

《名古屋市が住基ネットを接続していることについて》

「市が住基ネットを接続していることについて」の質問に対し、

【回答結果】 ・賛成(13%)、どちらかといえば賛成(21.7%)を含めても、計34.7%。 ・一方、反対(6.3%)+どちらかといえば反対(11.3%)、計17.6%。 ・どちらともいえない(29.5%)+わからない(16.7%)で、計46.2%

(ちなみに、アンケートでは、「住基ネットは最高裁で違憲ではないの判決が出ている」とか、「住基ネットは市民サービスの向上に役立っている」とか市側の意見を付して質問。マスコミなどからは“中立性”を欠くと批判された。)

【PIJのアンケート結果分析】 PIJは、このアンケート結果は、「住基ネットの有用性は極めて怪しい。ムダな出費」。「接続しつづけるかどうかは、市長の政治判断に委ねる」が、“大方の市民の判断”、とみる。

【アンケート結果に対する河村たかし市長のコメント】

今回のアンケートは、プライバシー問題、住基コードの利用拡大に伴う“成りすまし”問題、住基ネット情報の漏えい問題などは、あえて問わない形でアンケート調査を実施しました。

しかし、こうした問題を含めてアンケート調査を実施した場合、市民の皆様は、市が住基ネットを接続し続けることに、もっと強い疑問符、拒否反応を示したのではないかと思います。

いま、国は、住基ネットをベースとして、新たに民間も使う形の「社会保障番号・カード」を導入しようという提案をしています。しかし、こうした形で住基ネットを拡大利用していきますと、市民の皆様のプライバシー(個人情報)を、自治体(名古屋市)が守って行くことは非常に難しくなります。

先般、アメリカの西海岸、カリフォルニア・ロサンゼルスに視察に行ってきました。たまたま、「史上最大の成りすまし事件(Biggest ID Theft in History)発覚」のニュース(2009年8月18日)を目にしました。

この事件では、1億3千万人分のクレジットカード、デビットカード情報が盗まれ、成りすまし犯罪に使われたそうです。(この事件で、マイアミに住む38歳の男が逮捕され、起訴された、との報道でした。)

アメリカでは、クレジットカード、デビットカードカードなどの管理に政府が出した社会保障番号(SSN=Social Security Number)が使われています。このため、カード情報が盗まれれば、社会保障番号も漏れてしまうわけです。

アメリカでは、他人の社会保障番号を使った「なりすまし犯罪」には、手がつけられない状態に陥っています。連邦議会でも、対策に苦慮しています。

わが国でも、仮に住基ネットをベースに「社会保障番号・カード」を導入し、民間利用させた場合には、こうした情報犯罪事件があちこちで起こるおそれがあります。

私としても、市民の皆様が「成りすまし犯罪」の餌食になったりすることなく、安心してくらしていけるように、先頭にたって、プライバシー(個人情報)を守っていく必要があると考えています。

住基ネットについては、私は国会議員として活動していたときは反対の立場でありました。平成20年3月には、最高裁において、住基ネットにより本人確認情報を管理、利用等することは合憲であるとの判断が示されております。しかしながら、地裁、高裁の中には、住基ネットの運用を希望しない人の権利を侵し、憲法違反であると判断したものもあります。

今回の衆議院議員選挙の結果、民主党を中心とする政権が誕生することとなりますが、同党は、過去4回にわたり住基ネット廃止法案(住民基本台帳法の一部を改正する法律の廃止等に関する法律案)を国会に提出しています。

こうしたことから、新政権が住基ネットに対して、どのような方針を持って臨むのかについても注視していく必要があると考えています。

現時点で、市として引き続き住基ネットに接続するのか、切断することもありうるのかを判断しているわけではありませんが、今回のアンケート結果、費用対効果、プライバシー問題、国の動向などを踏まえながら、市民の皆様にとって最も望ましい結論を導いてまいりたいと考えています。

                                     名古屋市長 河村たかし