2009/06/12

行政不服審査法改正案は“国民の利益を守る内容??”

朝日新聞2009年6月11日朝刊「オピニオン」の欄に、旧総務省でお役人をされていた増島俊之氏(現聖学院大学客員教員)の「行政不服審査法:国民の利益守る早期改正を」の意見が掲載されていた。 

 増島氏いわく、「役所の不当な権力行使から国民の権利と利益を守り、役所の仕事の適正化を図る行政不服審査法の改正案が昨年国会に提案された。しかし、継続審議とされ、今国会でも審議されないまま廃案の雲行きにある。」ことを危惧し、早期の改正実現を促す内容だ。

  また、同氏は、「今回の改正案は、▽手続きはすべて「審査請求」に一本化▽客観・公正な審査と判断を確保するため、審査にかかわる「審理員」を置いて審査し、第三者機関の不服審査会がチェック▽審査を不当に遅らせないための標準処理機関の設定〜〜することになった。分かりやすさ、客観性と公正性の確保、迅速な処理といった観点から優れた改革案である。」と賛美する。

 さらに、同氏は、同法案は、「国民の権利、利益の保護と役所の仕事の仕方を大きく変える。それなのに与党は立法の努力を怠り、民主党も同法案を取り上げることがない。」と嘆いておられる。

  だが、租税事案の審査請求を担う「国税不服審判所」の現状を見てみても、今回の改正案が実現したとしても、第三者裁決機関である国税不服審判所が、真に“納税者の権利利益を守ってくれる機関”に大きく変る展望などはまったく見えてこない。相変わらず、租税行政庁の職員が審理員(審判官)の大半を占め、審判所は「課税庁の御用聞き」に終始する姿しか想像できない。

  このことからもわかるように、問題は、相変らず審理員(審判官・専門員)に、同じ省庁の行政官を任用する原則を貫き、“怪しげな独立性”を強調し、“役所が主役”の姿勢を貫いている改革案の“中身”にある。また、法科大学院が誕生し、法曹が毎年誕生する時代にいたっているのにかかわらず、審理員に、行政官に換えて、なぜ外部からこれら“法曹”、さらには、その他の専門職(税理士、公認会計士、医師など)を、積極的に任用する大胆な改革をしようとしないのかである。

  イギリスは、8年をかけて、行政審判所の抜本的改革を実施した。これまであった70種類あまりの個別の審判所を整理・統合し、新たに二進級制の“総合審判所”を誕生させた。6つの部からなる「第一段階審判所」と、3つの部からなる「上級審判所」である。これら二進級の審判所は、法務省が主管し、縦割りの省庁から完全に独立した審判所である。審理員は、縦割りの役人とはつながりのない外部から任用された法曹や専門員などである。新審判所は、2009年4月1日に船出した。

  わが国の行政不服審査法の改正案(行政不服審判所制度見直し)の“中身”を問い直す手がかりを得るためにも、CNNニューズ58号では、石村耕治PIJ代表に依頼し、イギリスの抜本的審判所制度改革についての紹介を掲載する予定。

 (ちなみに、58号は7月発行の予定。HPアップは、10月下旬、早読み希望の方は、是非とも会員になって欲しい。)                                             2009年6月12日                                                   CNNニューズ編集局