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私たちは、デジタル化(DX)の真っただ中に置かれている。デジタル化(DX)を好意的にとらえるか、そうでないかは人によって違う。
とはいっても、社会、経済のあらゆる部門でDXの影響は避けられない常態にある。「デジタルID(digital identity)」に対する考え方は、人によって違う。ただ、ネット上でのなりすましその他さまざまなネット犯罪を防ぐには、何らかの「デジタルID」が必要だ。
もっとも、学者でも「デジタルIDとは何か?」が分からない人も少なくない。最近読んだ記事で「この人、マイナICカードの本質を分かってないな?」と感じたこともあった。普通の市民のいたっては、もっと理解するのは難しいのではないか??
「デジタルID」とは、やさしくいえば、インターネットとパソコン(PC)またはスマホを使って、公共機関(国や自治体、公立学校など)や民間機関(会社その他の企業や学校など)のさまざまなウエブサイト(ホームページ/デジタルプラットフォーム/ポータルサイトなど言い方はさまざま。)にリモート(遠隔)アクセス/ログインする際に、本人確認(身元確認+当人認証)するに必要な道具(ツール)を指す。
主なものをあげると、ID+パスワード、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)、生体認証(顔・虹彩・指紋など)がある。
マイナカードは、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDを入れたICカードだ。
住民票の写しが欲しいとする。以前は市町村役場に出かけて行って、対面で申請する、あるいは郵送で申請するしかなかった。しかし、デジタルシフト/デジタル化が急激に進み、今日では、インターネットを使いパソコン(PC)やスマホなどからオンライン申請ができる。
また、電気やガス、上下水道代その他の公共料金の支払/銀行口座引落領収書、クレジットカードの利用額明細書なども、以前は紙/文書で通知を受けていた。しかし、今日では、デジタル/ネットでの通知が当り前になってきている。
スマホで、アプリを使ってクレジット利用明細を見たいとする。その場合、クレジット会社のウエブサイト(ホームページ/デジタルプラットフォーム/ポータルサイト)にアクセス/ログインすることになる。その際には、IDとパスワード(2段階認証)を入れるか、さらにはネットワーク暗唱番号ないしQ&A操作(3段階認証)をしないといけない。これが、まさにID+パスワード方式のデジタルIDだ。
また、人によっては、IDやパスワードなどを覚え切れないということで、顔認証(FaceID)機能を使うことになる。。これが、まさに生体認証(顔・虹彩・指紋など)方式のデジタルIDだ。
ただ、住民票写しのオンライン申請などには、理由がわからない制限がある。住民票の写しをオンライン申請する場合には、市町村のウエブサイトにログインする際のデジタルIDとしては、法律で、“マイナナンバーICカードに格納されたPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)以外のデジタルIDは使えない”ことになっている。国の役人が、国や自治体のウエブサイトにログインする際の個人用のデジタルIDとして、民間IT企業が開発したものは使わせないという方針で、政府規制をかけているためだ。
つまり、民間IT企業がデザインした簡易で利便性の高い「ID+パスワード」方式や生体認証(顔・虹彩・指紋など)方式のデジタルIDは使えない。各自治体も、住民票のオンライン申請などでは、住民にPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルID、つまりマイナICカードの利用を強制するしかない。
◆総務省に潰された東京渋谷区での民間活力を使った個人向けデジタルID
民間のスタートアップ、IT企業である東京都港区にあるBot Express社は、LinePayのアプリをベースにデジタルIDを開発・販売している。
東京都渋谷区は、2020年4月から、マイナナンバーICカードに格納されたPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDを使わず、Bot Express社とタックルを組んで同社のデジタルIDを使って、住民が住民票のオンライン申請をしたうえで住民票の郵送を受けられる制度を始めた。
この新システムでは、スマホで撮影した顔写真付き身分証とスマホのカメラで写した本人の容貌を送信、AI(人工知能)がそれらを照合し、本人と確認されれば住民票の写しを後日郵送する手順になっている。
AIによる判別がつかなかった場合には、自治体職員が目視で確認して、住民票を郵便で提供することになっている。金融機関で顧客が口座開設の際に利用するなど、オンラインで身元確認が完結する「eKYC(electronic Know Your Customer)」と呼ばれる手法と同じだ。
ちなみに、eKYC方式のデジタルIDは、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)で、マネー・ローンダリングやテロ資金供与防止を目的として、特定の事業者が取引する際の本人確認等でも認められている。eKYC方式のデジタルIDは法認されたセキュリティの確かなものである。
東京都渋谷区は、2020年4月に、Bot Express社社のデジタルIDを導入し、同区のウエブサイトのログインに利用できるようにし、住民票のオンライン申請をできるようにした。しかし、開始直後、総務省が「待った!」をかけた。
総務省は、2020年4月3日に、全国の市町村への「技術的助言」として、事実上同サービスを採用しないよう求める通知をした。住民票の交付には厳格な本人確認が必要であり、マイナンバーカードに搭載したPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)よりも性能が劣るeKYCの採用は「適切でない。」というのが理由だ。
総務省は、2021年9月には、この通知にあわせて、住民票の写しの交付に関連する省令を改正した。これにより、住民票のオンライン申請のウエブサイトへのログインの際の本人確認には、マイナンバーICカードに搭載されたPKI方式のデジタルIDしか認められないことになった。
民間IT企業のデジタルIDを使った渋谷区のオンライン申請は法令違反とするとの規定を設け、「悪法も法なり」の手法で同社のデジタルIDの自治体への販売を停止に追い込んだのである。
Bot Express社は、総務省の画策により、他の自治体へのサービス展開が事実上できなった。そこで、2022年9月10日に、同社は、総務省(国)の通知は違法であるとして、東京地裁に提訴した(総務省提訴のお知らせ|Bot Express (bot-express.com)。
東京地裁は、昨年末(2022年12月8日)にようやく判断をくだした。判決では、LINE申請では偽造された本人確認書類でも審査を通過する可能性があるとした上で、「不正の手段がひとたび確立されれば住民基本台帳制度の根幹への信頼が揺らぐことになりかねない」と指摘した。総務省が通知した厳格な本人確認は、行政のIT化を推進するデジタル手続法とも整合するとした(東京地判令和4年12月8日判決・東京地判令和4年(行ウ)第344号)。
東京地裁は、行政追従の消極的司法の姿を露わにする判断をくだし、原告IT企業の訴えを認めなかったのである。
この判決を下した裁判官は、スマホ全盛時代に入り、アメリカやオーストラリアなどでは、IDカードは使っていないことや、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式でなくとも、他の方式のデジタルIDでも、十分に安心・安全であるとの知見を欠いているのではないか?
総務省のやり方はむろんのこと、裁判所の判断にも、「官尊民卑そのもの」「民業圧迫」との厳しい批判がある。
もちろん、東京都渋谷区が採用したBot Express社の顔認証(顔パス)方式デジタルIDが最良の選択とは思えない点もある。顔認証(顔パス)式デジタルIDには、人種差別など人権侵害につながるとの厳しい声もあるからだ。
◆アメリカの個人向けデジタルIDは?
アメリカでは、スマホ全盛時代に入り、将来を見据えて、ICカードやカードリーターが必要なPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)技術を使ったデジタルIDを採用しようとする動きはまったくない。こうした考え方は、政府機関ばかりではなく、民間企業でも同様である。
アメリカでは、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)は、素人には煩雑で扱いにくい、ガラパゴス化した過去の技術、という見方が大勢を占める。
むしろ顔認証(顔パス)技術(FRT)利用に傾斜する傾向が伺える。加えて、データセキュリティ、デジタルIDとして、ブロックチェーン技術を活用しよういう動きすらある。
EUでも、ブロックチェーン技術を活用したデジタルIDへの転換の検討を始めた。
2017年にエストニアの国民総背番号(マイナ)システムがサイバー攻撃を受け、ICチップ管理機能が不全になった。人口約133万人弱の都市国家で、約75万のICカードが利用不能となり、正常化に当局は多大な時間を費やした。わが国のマスメディアなどが持ち上げるICカードを使ったエストニアの国民総背番号システムは、以外と脆弱なようだ。
これを機に、エストニア政府も、KPI技術を格納したICカードを使った既存の中央集約管理システムを、ブロックチェーン技術を活用する分割管理型のデジタルIDの仕組みに移行することを検討し始めた。
◆アメリカのデジタルIDでは、IT素人にはフレンドリーでない煩雑なPKI技術は使っていない
いずれにしろ、EU諸国とは異なり、アメリカは、市場主義を大事にする国である。同国では、わが国のようなマイナンバーカードにPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式の公定/国定のデジタルIDを格納して配るような不気味な政策は、絶対にコンセンサスが得られない。
今、アメリカでは、連邦や州行政機関では、「ID.me(アイデー・ドット・ミー)」という民間のスタートアップIT企業が開発・販売しているデジタルIDの利用が広がっている。(アメリカでデジタルIDにPKI技術が使われなかったのは、PKI技術がIT素人には煩雑で、ID.meのような簡素な方式が好まれたことによる。)
ID.meは、ウエブサイトのログインには、アカウントID とパスワード、複数のアナログ身元確認証の写しデータ、さらにはスマホやパソコンのウエブカメラを使って自撮りした写真画像(selfie image)の提出を求めるデザインだ。有人ビデオ(動画)チャット【Video Chat/インターネットを通じてお互いの映像を見ながら、リアルタイムにコミュニケーション・会話ができるサービス】の利用も可能だ。若いデジタルネイティブ、スマホネイティブ層には人気だ。
ところが、2022年に入ってから、ID.me社が開発・販売するデジタルIDサービスが、人権エコシステムを欠くのではないかとの理由で、連邦議会民主共和両党の議員からストップがかかった。
こうした指摘を受けて、連邦課税庁(IRS)は、電子申告やオンライン申請の際のウエブサイトへのログインにはID.me社のデジタルIDを利用を継続しているものの、スマホやパソコンのウエブカメラを使った自撮りした写真画像(selfie image)の提出の利用を止めている。
一般に、アメリカでは、監視カメラやデジタルIDなどに、生涯不変の生体認証情報を利活用することには否定的な見方が強い。IRSはいまだ世論や連邦議会の動向を注視している。IRSが、ID.meを継続して使うのか、他社のデジタルID、Login.govに代えるのかも含め、2023年2月にいたっても、新たな方針が出されていない。
◆デジタルIDのデザイン不正義(design injustice)追及の手をゆるめてはならない!
「デジタルID」は、個人向けのものだけではない。「個人以外」、つまり、会社や学校法人、市民団体(NPO/NGO)向けのものもある。「個人以外(法人等)」向けのデジタルIDには、民間IT企業が開発したさまざまな方式が使われている。したがって、個人向けデジタルIDのゲストな選択には、個人以外(法人等)向けのデジタルIDと対比で慎重に考える必要がある。
いずれにしろ、デジタルIDのデザインに対する国民監視が行き届かないと、デジタルIDはたちまち国民をデータ監視する「凶器」に変容する。わが国の現状がそうである。
アメリカの研究者は、ユーザー(市民)が、デジタルIDの「デザイン不正義(design injustice)」をゆるさないとする姿勢を保つことが大事だ、と強調する。また、デジタルIDのデザインに人権エコシステムをどのように組み込むべきかを真剣に勉強している。
◆わが国の国有デジタルIDは「民業圧迫」??
わが国では、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式が、マイナICカードに格納され、あたかみ公定/国定のデジタルIDとしても法認されてしまっている。ということは、国の役人は、個人用のデジタルIDは、ウエブサイトへの単なるリモートアクセス/ログインツールではなく、国民監視のツールとしての利用するの方が大事と考えているのだろう。
こうしたデジタルID「デザインの不正義」にストップをかけられる研究者もほとんどいない。マイナパンデミックへの抵抗勢力の人たちも概して勉強不足だ。国が個人向けデジタルIDサービスを独占することが「民業圧迫」につながる?との考えにも及ばない人が大多数だ。
わが国には、独立した研究者は少ない。国立大はもちろんのこと、慶応や中央など私大の大勢の研究者までもが、総務省などのお抱えに化してしまっている。国の研究助成など甘い蜜でささやきかけられれば、誰しも誘惑の負けてしまうのだろう。気持ちが分からないでもない。
結果、逆に、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のガラ系のマイナICカードに異論を唱える研究者の方が絶滅危惧種になってしまっている。オーマイゴッドだ!!
◆やはり「マイ国党」が必要だ!!
マイナパンデミックにストップをかける運動をする場合、「デジタルIDとは何か」、とりわけ「個人向けデジタルID」についての深掘りして欲しい。でないと、先が見えなくなりかねない。
わが国は、「リアルID」を継ぎ足し「デジタルID」に衣替え、エスカレート利用する手法をとっている。
わが国の政府は、国民皆保険制度で逃げ切れないマイナ保険証という名の国内パスポート(内国人登録証)を国民全員に携行させ、医療機関などに設置された背番号と顔認証(顔パス/生体認証)データで国民の移動の自由を監視する仕組み(車輛のナンバーから追跡するNシステムに匹敵する「Mシステム」)/顔認証+背番号カード式自動改札システムを構築する構えだ。
Mシステムは、医療機関や薬局などにマイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末を設置した高度な「監視ツールづくり」をする国の役人がの悪巧みが実ったケースだ。
Mシステムに、国民は一層不信感を露わにしている。各界からこの監視ツールつくりに対する反対の大合唱が続いている。
Mシステムは、国民全員の医療/健康データを、国家が管理し、平和憲法をないがしろにする、自動徴兵システム、自動赤紙発行装置に変貌するのではないか?
現在のようなていたらくの政治状況では何が起こるかわからない。
政府は、公定/国定のICカード、マイナICカードが、デジタル化(DX)に必須の道具(ツール)であるように装うことで、国民全員に国内パスポートを常時携行させ、さらに精緻なデータ監視国家をつくろうと画策している。また、公的機関へのデジタルアクセスには、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDしか使えないようにして、トータルな国民監視を容易にするシステムつくりに懸命だ。
いずれにしろ、デジタル化(DX)にかこつけて、いわば“国定のKPI(公開鍵/電子証明書/電子署名)式デジタルID”をICカードに組み込み、国内パスポートとして国民に強要する“集団的ノイローゼ”は、いただけない。
国がマイナポイントと地方交付税で懐柔し、国民や自治体を“欲しがりません勝つまでは”時代の「赤紙(レッドカード)配付おめでとう」に似た現象が起きている。
マイナカードというIC仕様の赤紙配付で国や担当大臣などがマイナポイントと地方交付税で国民や自治体をあおり、あたかも戦時下のようにマスメディアが協力しているのも異様だ。
マイナカードを持たない人は「国賊」、“国賊一家”には本来無料のはずの給食費などを有料にするという頓珍漢の自治体首長も現れる始末だ。山本一太群馬県知事や河村たかし名古屋市長など、保守良識派は、「どうかしている?」と見て、こうした蛮行を糾弾している。
そもそも、マイナンバーは、現在国民民主党にいる古川元久議員らが旧民主党時代の旗振りをした愚策だ。彼らの構想は、いまやこの国を確実に権威主義国家に転落させている。責任は重い。
◆ガラパゴス化した愚策のエスカレート:新型マイナカード配付計画
スマホ全盛時代に入り、デジタルIDをスマホに直接格納するモデルの利用が広がっている。ICカードは、紛失・悪用の可能性あり、新たななりすまし犯罪につながりかねないからだ。
現在のマイナカードは、カードの表面に顔写真や氏名、住所、性別、生年月日が記載されている。しかし、こうした情報は内蔵されているICチップにも含まれている。
政府は、2026年を視野に、新型のカード導入を検討し出した。新仕様では、個人情報を見られたくない、または性別を載せたくないなどといった声にも配慮して、カードの表面に、こうした情報を載せないことが検討されている。また、18歳以上の場合、「発行から10回目の誕生日まで」とされているカードの有効期限についても見直すとのことだ。
国の役人は、ICカードを使わない世界の流れに抗して、時代遅れのPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDに固執し、血税の垂れ流しを続けようとしている。
“止まらない、止められない新型マイナCIカードパンデミック”でも、国会にはそれを止めようという見識ある活発な動きは見られない。
◆急がれる人権エコシステムを盛り込んだデジタルIDの確立
わが国が、デジタル化(DX)の波を悪用し、中国のような専制主義国家を志向するようでは、世界の民主国家陣営から相手にされなくなる。デジタルID問題で国策フィーストの自治体首長その他の政治家のリスキリング(学び直し)が急務である。
同時に、デジタルIDに人権エコシステム(the human rights ecosystem)を組み込むことも避けてはとおれない。民主主義を志向するわが国の市民、政党、市民団体に課された最重要課題の1つだ。
もちろん、ネットを使って危ない国策を評論する、街頭でのムシロ旗をあげたマイナパンデミック撲滅運動も大事である。
しかし、シングルイシュー(単一争点)の「マイ国党(マイナパンデミックから国民を守る政党)」を立ち上げ、国会や自治体議会へ議員を送る軌道をスタートアップさせないといけない。リーダーシップが問われている。
このままでは、全国民がデジタルIDで●●の穴まで監視される超データ監視国家、データ収容所列島が誕生してしまう。若いカップルが子どもを産まない選択を強めるかも知れない。
コロナ禍を契機に、デジタルシフトは急激に進んでいる。西欧型民主主義国家を目指すとをうたった憲法を持つこの国においては、人権エコシステムを盛り込んだデジタルIDの確立が急務である。
デジタル化(DX)に悪乗りしたマイナICカードは、デジタルで人権エコシステムを破壊する(Digital disruption of human rights)邪悪なツールである!!
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私たちは、デジタル化(DX)の真っただ中に置かれている。デジタル化(DX)を好意的にとらえるか、そうでないかは人によって違う。
とはいっても、社会、経済のあらゆる部門でDXの影響は避けられない常態にある。「デジタルID(digital identity)」に対する考え方は、人によって違う。ただ、ネット上でのなりすましその他さまざまなネット犯罪を防ぐには、何らかの「デジタルID」が必要だ。
もっとも、学者でも「デジタルIDとは何か?」が分からない人も少なくない。最近読んだ記事で「この人、マイナICカードの本質を分かってないな?」と感じたこともあった。普通の市民のいたっては、もっと理解するのは難しいのではないか??
「デジタルID」とは、やさしくいえば、インターネットとパソコン(PC)またはスマホを使って、公共機関(国や自治体、公立学校など)や民間機関(会社その他の企業や学校など)のさまざまなウエブサイト(ホームページ/デジタルプラットフォーム/ポータルサイトなど言い方はさまざま。)にリモート(遠隔)アクセス/ログインする際に、本人確認(身元確認+当人認証)するに必要な道具(ツール)を指す。
主なものをあげると、ID+パスワード、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)、生体認証(顔・虹彩・指紋など)がある。
マイナカードは、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDを入れたICカードだ。
住民票の写しが欲しいとする。以前は市町村役場に出かけて行って、対面で申請する、あるいは郵送で申請するしかなかった。しかし、デジタルシフト/デジタル化が急激に進み、今日では、インターネットを使いパソコン(PC)やスマホなどからオンライン申請ができる。
また、電気やガス、上下水道代その他の公共料金の支払/銀行口座引落領収書、クレジットカードの利用額明細書なども、以前は紙/文書で通知を受けていた。しかし、今日では、デジタル/ネットでの通知が当り前になってきている。
スマホで、アプリを使ってクレジット利用明細を見たいとする。その場合、クレジット会社のウエブサイト(ホームページ/デジタルプラットフォーム/ポータルサイト)にアクセス/ログインすることになる。その際には、IDとパスワード(2段階認証)を入れるか、さらにはネットワーク暗唱番号ないしQ&A操作(3段階認証)をしないといけない。これが、まさにID+パスワード方式のデジタルIDだ。
また、人によっては、IDやパスワードなどを覚え切れないということで、顔認証(FaceID)機能を使うことになる。。これが、まさに生体認証(顔・虹彩・指紋など)方式のデジタルIDだ。
ただ、住民票写しのオンライン申請などには、理由がわからない制限がある。住民票の写しをオンライン申請する場合には、市町村のウエブサイトにログインする際のデジタルIDとしては、法律で、“マイナナンバーICカードに格納されたPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)以外のデジタルIDは使えない”ことになっている。国の役人が、国や自治体のウエブサイトにログインする際の個人用のデジタルIDとして、民間IT企業が開発したものは使わせないという方針で、政府規制をかけているためだ。
つまり、民間IT企業がデザインした簡易で利便性の高い「ID+パスワード」方式や生体認証(顔・虹彩・指紋など)方式のデジタルIDは使えない。各自治体も、住民票のオンライン申請などでは、住民にPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルID、つまりマイナICカードの利用を強制するしかない。
◆総務省に潰された東京渋谷区での民間活力を使った個人向けデジタルID
民間のスタートアップ、IT企業である東京都港区にあるBot Express社は、LinePayのアプリをベースにデジタルIDを開発・販売している。
東京都渋谷区は、2020年4月から、マイナナンバーICカードに格納されたPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDを使わず、Bot Express社とタックルを組んで同社のデジタルIDを使って、住民が住民票のオンライン申請をしたうえで住民票の郵送を受けられる制度を始めた。
この新システムでは、スマホで撮影した顔写真付き身分証とスマホのカメラで写した本人の容貌を送信、AI(人工知能)がそれらを照合し、本人と確認されれば住民票の写しを後日郵送する手順になっている。
AIによる判別がつかなかった場合には、自治体職員が目視で確認して、住民票を郵便で提供することになっている。金融機関で顧客が口座開設の際に利用するなど、オンラインで身元確認が完結する「eKYC(electronic Know Your Customer)」と呼ばれる手法と同じだ。
ちなみに、eKYC方式のデジタルIDは、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)で、マネー・ローンダリングやテロ資金供与防止を目的として、特定の事業者が取引する際の本人確認等でも認められている。eKYC方式のデジタルIDは法認されたセキュリティの確かなものである。
東京都渋谷区は、2020年4月に、Bot Express社社のデジタルIDを導入し、同区のウエブサイトのログインに利用できるようにし、住民票のオンライン申請をできるようにした。しかし、開始直後、総務省が「待った!」をかけた。
総務省は、2020年4月3日に、全国の市町村への「技術的助言」として、事実上同サービスを採用しないよう求める通知をした。住民票の交付には厳格な本人確認が必要であり、マイナンバーカードに搭載したPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)よりも性能が劣るeKYCの採用は「適切でない。」というのが理由だ。
総務省は、2021年9月には、この通知にあわせて、住民票の写しの交付に関連する省令を改正した。これにより、住民票のオンライン申請のウエブサイトへのログインの際の本人確認には、マイナンバーICカードに搭載されたPKI方式のデジタルIDしか認められないことになった。
民間IT企業のデジタルIDを使った渋谷区のオンライン申請は法令違反とするとの規定を設け、「悪法も法なり」の手法で同社のデジタルIDの自治体への販売を停止に追い込んだのである。
Bot Express社は、総務省の画策により、他の自治体へのサービス展開が事実上できなった。そこで、2022年9月10日に、同社は、総務省(国)の通知は違法であるとして、東京地裁に提訴した(総務省提訴のお知らせ|Bot Express (bot-express.com)。
東京地裁は、昨年末(2022年12月8日)にようやく判断をくだした。判決では、LINE申請では偽造された本人確認書類でも審査を通過する可能性があるとした上で、「不正の手段がひとたび確立されれば住民基本台帳制度の根幹への信頼が揺らぐことになりかねない」と指摘した。総務省が通知した厳格な本人確認は、行政のIT化を推進するデジタル手続法とも整合するとした(東京地判令和4年12月8日判決・東京地判令和4年(行ウ)第344号)。
東京地裁は、行政追従の消極的司法の姿を露わにする判断をくだし、原告IT企業の訴えを認めなかったのである。
この判決を下した裁判官は、スマホ全盛時代に入り、アメリカやオーストラリアなどでは、IDカードは使っていないことや、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式でなくとも、他の方式のデジタルIDでも、十分に安心・安全であるとの知見を欠いているのではないか?
総務省のやり方はむろんのこと、裁判所の判断にも、「官尊民卑そのもの」「民業圧迫」との厳しい批判がある。
もちろん、東京都渋谷区が採用したBot Express社の顔認証(顔パス)方式デジタルIDが最良の選択とは思えない点もある。顔認証(顔パス)式デジタルIDには、人種差別など人権侵害につながるとの厳しい声もあるからだ。
◆アメリカの個人向けデジタルIDは?
アメリカでは、スマホ全盛時代に入り、将来を見据えて、ICカードやカードリーターが必要なPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)技術を使ったデジタルIDを採用しようとする動きはまったくない。こうした考え方は、政府機関ばかりではなく、民間企業でも同様である。
アメリカでは、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)は、素人には煩雑で扱いにくい、ガラパゴス化した過去の技術、という見方が大勢を占める。
むしろ顔認証(顔パス)技術(FRT)利用に傾斜する傾向が伺える。加えて、データセキュリティ、デジタルIDとして、ブロックチェーン技術を活用しよういう動きすらある。
EUでも、ブロックチェーン技術を活用したデジタルIDへの転換の検討を始めた。
2017年にエストニアの国民総背番号(マイナ)システムがサイバー攻撃を受け、ICチップ管理機能が不全になった。人口約133万人弱の都市国家で、約75万のICカードが利用不能となり、正常化に当局は多大な時間を費やした。わが国のマスメディアなどが持ち上げるICカードを使ったエストニアの国民総背番号システムは、以外と脆弱なようだ。
これを機に、エストニア政府も、KPI技術を格納したICカードを使った既存の中央集約管理システムを、ブロックチェーン技術を活用する分割管理型のデジタルIDの仕組みに移行することを検討し始めた。
◆アメリカのデジタルIDでは、IT素人にはフレンドリーでない煩雑なPKI技術は使っていない
いずれにしろ、EU諸国とは異なり、アメリカは、市場主義を大事にする国である。同国では、わが国のようなマイナンバーカードにPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式の公定/国定のデジタルIDを格納して配るような不気味な政策は、絶対にコンセンサスが得られない。
今、アメリカでは、連邦や州行政機関では、「ID.me(アイデー・ドット・ミー)」という民間のスタートアップIT企業が開発・販売しているデジタルIDの利用が広がっている。(アメリカでデジタルIDにPKI技術が使われなかったのは、PKI技術がIT素人には煩雑で、ID.meのような簡素な方式が好まれたことによる。)
ID.meは、ウエブサイトのログインには、アカウントID とパスワード、複数のアナログ身元確認証の写しデータ、さらにはスマホやパソコンのウエブカメラを使って自撮りした写真画像(selfie image)の提出を求めるデザインだ。有人ビデオ(動画)チャット【Video Chat/インターネットを通じてお互いの映像を見ながら、リアルタイムにコミュニケーション・会話ができるサービス】の利用も可能だ。若いデジタルネイティブ、スマホネイティブ層には人気だ。
ところが、2022年に入ってから、ID.me社が開発・販売するデジタルIDサービスが、人権エコシステムを欠くのではないかとの理由で、連邦議会民主共和両党の議員からストップがかかった。
こうした指摘を受けて、連邦課税庁(IRS)は、電子申告やオンライン申請の際のウエブサイトへのログインにはID.me社のデジタルIDを利用を継続しているものの、スマホやパソコンのウエブカメラを使った自撮りした写真画像(selfie image)の提出の利用を止めている。
一般に、アメリカでは、監視カメラやデジタルIDなどに、生涯不変の生体認証情報を利活用することには否定的な見方が強い。IRSはいまだ世論や連邦議会の動向を注視している。IRSが、ID.meを継続して使うのか、他社のデジタルID、Login.govに代えるのかも含め、2023年2月にいたっても、新たな方針が出されていない。
◆デジタルIDのデザイン不正義(design injustice)追及の手をゆるめてはならない!
「デジタルID」は、個人向けのものだけではない。「個人以外」、つまり、会社や学校法人、市民団体(NPO/NGO)向けのものもある。「個人以外(法人等)」向けのデジタルIDには、民間IT企業が開発したさまざまな方式が使われている。したがって、個人向けデジタルIDのゲストな選択には、個人以外(法人等)向けのデジタルIDと対比で慎重に考える必要がある。
いずれにしろ、デジタルIDのデザインに対する国民監視が行き届かないと、デジタルIDはたちまち国民をデータ監視する「凶器」に変容する。わが国の現状がそうである。
アメリカの研究者は、ユーザー(市民)が、デジタルIDの「デザイン不正義(design injustice)」をゆるさないとする姿勢を保つことが大事だ、と強調する。また、デジタルIDのデザインに人権エコシステムをどのように組み込むべきかを真剣に勉強している。
◆わが国の国有デジタルIDは「民業圧迫」??
わが国では、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式が、マイナICカードに格納され、あたかみ公定/国定のデジタルIDとしても法認されてしまっている。ということは、国の役人は、個人用のデジタルIDは、ウエブサイトへの単なるリモートアクセス/ログインツールではなく、国民監視のツールとしての利用するの方が大事と考えているのだろう。
こうしたデジタルID「デザインの不正義」にストップをかけられる研究者もほとんどいない。マイナパンデミックへの抵抗勢力の人たちも概して勉強不足だ。国が個人向けデジタルIDサービスを独占することが「民業圧迫」につながる?との考えにも及ばない人が大多数だ。
わが国には、独立した研究者は少ない。国立大はもちろんのこと、慶応や中央など私大の大勢の研究者までもが、総務省などのお抱えに化してしまっている。国の研究助成など甘い蜜でささやきかけられれば、誰しも誘惑の負けてしまうのだろう。気持ちが分からないでもない。
結果、逆に、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のガラ系のマイナICカードに異論を唱える研究者の方が絶滅危惧種になってしまっている。オーマイゴッドだ!!
◆やはり「マイ国党」が必要だ!!
マイナパンデミックにストップをかける運動をする場合、「デジタルIDとは何か」、とりわけ「個人向けデジタルID」についての深掘りして欲しい。でないと、先が見えなくなりかねない。
わが国は、「リアルID」を継ぎ足し「デジタルID」に衣替え、エスカレート利用する手法をとっている。
わが国の政府は、国民皆保険制度で逃げ切れないマイナ保険証という名の国内パスポート(内国人登録証)を国民全員に携行させ、医療機関などに設置された背番号と顔認証(顔パス/生体認証)データで国民の移動の自由を監視する仕組み(車輛のナンバーから追跡するNシステムに匹敵する「Mシステム」)/顔認証+背番号カード式自動改札システムを構築する構えだ。
Mシステムは、医療機関や薬局などにマイナ保険証+顔認証情報を使ったマイナ保険証資格確認オンラインシステムの端末を設置した高度な「監視ツールづくり」をする国の役人がの悪巧みが実ったケースだ。
Mシステムに、国民は一層不信感を露わにしている。各界からこの監視ツールつくりに対する反対の大合唱が続いている。
Mシステムは、国民全員の医療/健康データを、国家が管理し、平和憲法をないがしろにする、自動徴兵システム、自動赤紙発行装置に変貌するのではないか?
現在のようなていたらくの政治状況では何が起こるかわからない。
政府は、公定/国定のICカード、マイナICカードが、デジタル化(DX)に必須の道具(ツール)であるように装うことで、国民全員に国内パスポートを常時携行させ、さらに精緻なデータ監視国家をつくろうと画策している。また、公的機関へのデジタルアクセスには、PKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDしか使えないようにして、トータルな国民監視を容易にするシステムつくりに懸命だ。
いずれにしろ、デジタル化(DX)にかこつけて、いわば“国定のKPI(公開鍵/電子証明書/電子署名)式デジタルID”をICカードに組み込み、国内パスポートとして国民に強要する“集団的ノイローゼ”は、いただけない。
国がマイナポイントと地方交付税で懐柔し、国民や自治体を“欲しがりません勝つまでは”時代の「赤紙(レッドカード)配付おめでとう」に似た現象が起きている。
マイナカードというIC仕様の赤紙配付で国や担当大臣などがマイナポイントと地方交付税で国民や自治体をあおり、あたかも戦時下のようにマスメディアが協力しているのも異様だ。
マイナカードを持たない人は「国賊」、“国賊一家”には本来無料のはずの給食費などを有料にするという頓珍漢の自治体首長も現れる始末だ。山本一太群馬県知事や河村たかし名古屋市長など、保守良識派は、「どうかしている?」と見て、こうした蛮行を糾弾している。
そもそも、マイナンバーは、現在国民民主党にいる古川元久議員らが旧民主党時代の旗振りをした愚策だ。彼らの構想は、いまやこの国を確実に権威主義国家に転落させている。責任は重い。
◆ガラパゴス化した愚策のエスカレート:新型マイナカード配付計画
スマホ全盛時代に入り、デジタルIDをスマホに直接格納するモデルの利用が広がっている。ICカードは、紛失・悪用の可能性あり、新たななりすまし犯罪につながりかねないからだ。
現在のマイナカードは、カードの表面に顔写真や氏名、住所、性別、生年月日が記載されている。しかし、こうした情報は内蔵されているICチップにも含まれている。
政府は、2026年を視野に、新型のカード導入を検討し出した。新仕様では、個人情報を見られたくない、または性別を載せたくないなどといった声にも配慮して、カードの表面に、こうした情報を載せないことが検討されている。また、18歳以上の場合、「発行から10回目の誕生日まで」とされているカードの有効期限についても見直すとのことだ。
国の役人は、ICカードを使わない世界の流れに抗して、時代遅れのPKI(公開鍵・電子証明書・電子署名)方式のデジタルIDに固執し、血税の垂れ流しを続けようとしている。
“止まらない、止められない新型マイナCIカードパンデミック”でも、国会にはそれを止めようという見識ある活発な動きは見られない。
◆急がれる人権エコシステムを盛り込んだデジタルIDの確立
わが国が、デジタル化(DX)の波を悪用し、中国のような専制主義国家を志向するようでは、世界の民主国家陣営から相手にされなくなる。デジタルID問題で国策フィーストの自治体首長その他の政治家のリスキリング(学び直し)が急務である。
同時に、デジタルIDに人権エコシステム(the human rights ecosystem)を組み込むことも避けてはとおれない。民主主義を志向するわが国の市民、政党、市民団体に課された最重要課題の1つだ。
もちろん、ネットを使って危ない国策を評論する、街頭でのムシロ旗をあげたマイナパンデミック撲滅運動も大事である。
しかし、シングルイシュー(単一争点)の「マイ国党(マイナパンデミックから国民を守る政党)」を立ち上げ、国会や自治体議会へ議員を送る軌道をスタートアップさせないといけない。リーダーシップが問われている。
このままでは、全国民がデジタルIDで●●の穴まで監視される超データ監視国家、データ収容所列島が誕生してしまう。若いカップルが子どもを産まない選択を強めるかも知れない。
コロナ禍を契機に、デジタルシフトは急激に進んでいる。西欧型民主主義国家を目指すとをうたった憲法を持つこの国においては、人権エコシステムを盛り込んだデジタルIDの確立が急務である。
デジタル化(DX)に悪乗りしたマイナICカードは、デジタルで人権エコシステムを破壊する(Digital disruption of human rights)邪悪なツールである!!