2018/09/02

個人情報保護委員会(PPC)へのヒアリング実施

18年8月29日に、市民団体「共通番号いらないネット」の要請に応じ、個人情報保護委員会(PPC)は、総務省、厚労省の担当者とともに、参議院議員会館における約2時間にわたるヒアリングに参加した。、今回のヒアリングの実施にあたっては、参議院共産党田村智子議員に仲介の労をとっていただいた。 司会・質問には、共通番号いらないネットの宮崎・原田両氏があたった。市民側からは、マイナンバー(共通番号)訴訟神奈川の原告側弁護士を含む各界の代表30人程度、PIJからは石村代表が参加した。

ヒアリングでは、おおむね次の4点について、回答、質疑応答がなされた。 ●特別徴収税額通知書の漏えい問題についての対応 ●事業者の取得した個人番号の利用目的変更のQ&Aについて ●情報提供ネットワークシステムの特定個人情報保護評価について ●日本年金機構の不適正な再委託への対応について

4つの質問事項を、もう少し噛み砕いて言うと、?特別徴収税額決定通知書へのマイナンバー記載問題についてどのような対応をしたのか、?事業者に対して他の目的で取得したマイナンバーの使い回しを容認するQ&Aを出しているが、こうしたことを平然と行う委員会(PPC)は、独立した第三者機関といえるのか、?情報提供ネットワークシステム(マイナポータル)の利用開始にともなう特定個人情報の保護について委員会(PCC)が真にその役割を果たしているのか、?日本年金機構が事務を民間会社に下請けに出し、その下請け先が中国の企業に再委託し、その中国企業がずさんな入力作業を行い問題となったが、委員会(PPC)はどのような指導・監督を行ったのか。

今回のヒアリングでは、市民団体と委員会(PPC)や行政側との間で、かなりの意見交換ができたのではないか。

■今回のヒアリングでわかったこと:法改正も視野に入れた運動も必要

今回のヒアリングで浮き彫りになったことがある。それは、一言でいえば、“個人情報保護委員会(PPC)に法令上与えられた職務権限の限界”と、市民側の“委員会(PPC)に対する誤解と期待”が交差していることである。

危ないマイナンバーを導入するということで、「特定個人情報保護委員会」が創設され、後に「個人情報保護委員会(PPC)」に改組された。私たち市民は、個人情報保護法に基づき設置されている個人情報保護委員会(PPC)は、総務省のような行政機関が無茶なことをしたら「ダメ!」とたしなめるのは当然の任務だと思うわけである。言い換えると、個人情報保護委員会(PPC)は、市民の側にたって行動する独立した第三者機関として設置されていると考えているわけである。

ところが、法律(個人情報保護法)を見てもわかるように、委員会(PPC)は最初から国民の側にたって個人情報を「保護」する組織としてつくられていないわけである。

この点は、個人情報保護法をチェックすればわかる。同法は、委員会(PPC)に対して、「個人情報取扱事業者」の個人情報取扱いに関する苦情の申出に対処する権限を与えている(法61条2号)。ところが、、国の行政機関とか自治体などを、個人情報保護法上の「個人情報取扱事業者」から除外しているのである(法2条5項)。つまり、会社や商店、私立学校などの民間機関のみを、「個人取扱事業者」とし、PPCが対処できる対象としているのである。国の行政機関とか自治体などには、PPCはアンタッチャブルなわけである。

このように、委員会(PPC)は、こうした市民団体からの行政による個人情報取扱いに関する苦情の申出を請けること、その申出に従い国の行政機関を助言・指導などはできない法的仕組みになっているわけである。

個人情報保護委員会(PPC)は、実際にやっていることは、危ないマイナンバーの利用促進活動一辺倒なわけである。事実、マイナンバーの危ない拡大利用に歯止めをかける役割などまったく果たしていないわけである。現在のようなスタンスでは、委員会(PPC)は、市民から“個人情報反故委員会”と揶揄されても、仕方がない。委員会(PPC)の現在の姿には大きな疑問符がついて当然である。

しかし、一方で、ヒアリングに出席していた委員会(PPC)職員が吐露したように、 個人情報保護委員会(PPC)は、その事務遂行にあたり、法令上、特定個人情報の有用性を常に織り込むように求められるなどの縛りがあり、正面から国民の個人情報を保護する活動をすることが難しい制度設計になっていることも見逃せない。この点に、私たち市民はもっと注目する必要がある。

つまり、市民団体は、議員の力をかりて委員会(PPC)や総務省などの職員を呼びつけて、彼らに問いただすのもよい。しかし、彼らをいくら攻めたてても、法令が「PPCに“名ばかり第三者委員会”として役割を果たせ!」と命じている以上、PPCも法律を破るわけにはいかずどうにもならない面もあることを理解しないといけない。残念ながら、まさに“悪法も法なり”なわけである。

どうせ国会議員の力をかりるならば、議員立法で悪法改正を目指すことも考えないといけない。そのための市民運動を進めていかないといけないのではないか。でないと、共通番号いらない活動はしぼむ。

個人情報保護法(改正法を含む)は、いわゆる「政府立法(閣法)」でつくられた法律である。つまり、行政府の役人が法案をまとめ内閣が国会に提出し通過した法律である。

行政府の役人は、法律をまとめるときに、自分らを縛る法律はつくりたがらない。彼らに丸投げしたら、行政機関も監督・立入り・指導などができる独立した強固な権限を持った個人情報保護委員会(PPC)などつくるわけがない。

ちなみに、オーストラリア情報コミッショナー事務局(OACI)は、情報公開+プライバシー保護問題を担当する連邦議会直属で、オムニバス方式(公民統合規制方式/公民包括規制方式)を採る独立した第三者機関である。つまり、民間機関のみならず行政機関に対しても規制権限を持っている【「日豪の個人情報保護機関を比較する」CNNニューズ96号参照】。。

わが国の個人情報保護委員会改革には、オーストラリアのOACI、さらには、同じくオムニバス方式を採用するプライバシーコミッショナー事務局(OPC)などが参考になるのではないか。

個人情報保護委員会(PPC)のような機関の権限強化を叫ぶ場合には、注意もいる。この種の委員会(PPC)が、プライバシーを守る、個人情報侵害を摘発するという旗頭のもと、ある種の検閲機関に進化するおそれもないとはいえないからである。“木を見て森を見ない”ようになってはならない。

私たち市民団体には、議員に働きかけ、「議員立法」で“国民が主役”の個人情報改正案(PPC改革案を含む)をまとめる作業を含め、もっと進化した運動が求められている。

そのために、私たち市民は、まず、“政府立法”と“議員立法”の違いから勉強しなければならない!!

次のCNNニューズ95号(18年10月20日発行予定)では、18年8月29日のヒアリングの報告や”政府立法と議員立法とは何か”などについての記事を掲載する。          
  (CNNニューズ編集局)