連邦議会下院は、2012年8月1日に、HICN/SSNを悪用した成りすまし犯罪に対処するねらいから、下院歳入委員会の社会保障小委員会(Social Security Subcommittee)と保健小委員会(Health Subcommittee)が共同で、「メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除することに関する合同公聴会(Joint Hearing on Removing Social Security Numbers from Beneficiaries’ Medicare Cards)」を開催した。
小委員会は、この合同公聴会に、保健社会福祉省(HHS=Health and Human Service)の外局でメディケアを所管する連邦社会保障庁(SSA)の実務を担当するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS=Centers for Medicare and Medicaid Services)の職員を呼んで、証言を求めた。
《米議会公聴会の証言から共通番号の危険性を読む》
【アメリカ、医療分野も共通番号から分野別番号へ転換の動き】
≪成りすまし犯罪対策で、メディケア(公的高齢者医療)事務でも共通番号/社会保障番号(SSN)から分野別限定番号への転換を模索≫
アメリカでは、個人の共通番号である社会保障番号(SSN=Social Security Number)の不正利用、悪用で、成りすまし犯罪がきわめて深刻な状況にある。
このため、CNNニューズ70号で紹介したように、国防総省(DOD=Department of Defense)が長い間、個人番号として使ってきた共通番号(SSN/社会保障番号)の利用を止めて、新たな11ケタの「国防総省本人確認番号(DOD ID number)」を使うことにした。
また、2011年1月から、連邦課税庁(IRS=Internal Revenue Service/内国歳入庁)も、成りすまし不正申告の被害を受けた個人納税者向けに「身元保護個人納税者番号(IP PIN=Identity Protection Personal Identification Number)」の発行を開始した。
さらに、アメリカでは、「メディケア(Medicare)」という名の高齢者向けの公的医療保険制度を維持している。メディケア(高齢者医療)カードには、健康保険請求番号(HICN=Health Insurance Claim Number)が記載されている。HICNには、共通番号/社会保障番(SSN)が転用されている。このHICN/SSNが成りすまし犯罪のツールと化している。多くの高齢者が多発する成りすまし犯罪に巻き込まれ、深刻な社会問題となっている。
連邦議会では、さまざまな立法を行う場合に、常任委員会(Committee)のもとにある小委員会(Sub-committee)の場で公聴会 (Hearing)を頻繁に開催し、その分野での政府や民間の専門家や関係者を呼んで証言を求める。
連邦議会下院は、2012年8月1日に、HICN/SSNを悪用した成りすまし犯罪に対処するねらいから、下院歳入委員会の社会保障小委員会(Social Security Subcommittee)と保健小委員会(Health Subcommittee)が共同で、「メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除することに関する合同公聴会(Joint Hearing on Removing Social Security Numbers from Beneficiaries’ Medicare Cards)」を開催した。
小委員会は、この合同公聴会に、保健社会福祉省(HHS=Health and Human Service)の外局でメディケアを所管する連邦社会保障庁(SSA)の実務を担当するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS=Centers for Medicare and Medicaid Services)の職員を呼んで、証言を求めた。
加えて、政府検査院(GAO=Government Accountability Office)【わが国憲法(90条)に基づき設置されている会計検査院のモデルとなった機関】の教育・就労・所得補償担当部長にも出席を依頼し、証言を求めた。
これら証言者は共に、犯罪ツール化した共通番号をメディケア(高齢者医療)カードに使い続けることの危険性を指摘した。とりわけ、政府検査院(GAO)の証言者は、サービスセンター(CMS)の無策を批判し、一刻も早くメディケア・カードから共通番号/社会保障番号(SSN)を削除し、新たな「分野別限定番号」を採用しないと、高齢者が成りすまし犯のターゲットになり、被害拡大が懸念されると警鐘を発した。
メディケアを所管する連邦社会保障庁(SSA)の実務を担当するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)の証言者は、3つの選択肢(改革案)を提示した。そして、新たな「メディケア受給者識別子(MBI=Medicare Beneficiary Identifier)」、つまり独自の「分野別限定番号」を導入し、共通番号/社会保障番号(SSN)からメディケア分野固有のMBI【番号】に転換する案が最適であるとの認識を示した。しかし、この変換には、民間の保健医療サービス提供者などのシステム変更、受給者への周知・教育・相談などを含めると、コスト(費用)が巨額(CMS見積は8千億ドル程度)にのぼることから、実施できないでいる旨の弁解をした。
これに対して、政府検査院(GAO)の証言者は、サービスセンター(CMS)の証言者と同様に、共通番号/社会保障番号(SSN)の利用を止め、新たにこの分野に固有の限定番号を導入しそれを使うべきであると指摘した。また、CMSが選択肢として示した提案に盛られた対策コスト見積は高すぎると批判し、いずれの案でもコスト負担には大きな差はないとの見解を示した。むしろ、共通番号/社会保障番号(SSN)の利用を止め新たな分野別番号へ変換しないでいること自体が大きな負担につながっており、成りすまし犯はメディケア受給者を標的にして手ぐすね引いて待ち構えていると、サービスセンター(CMS)の認識の甘さを批判した。
この公聴会での証言は、生涯にわたり不変の目に見える共通番号(パスワード)を導入すると、それが犯罪ツール化しても、比較的に安全な分野別限定番号に変換するのですら、至難のわざであることを教えてくれる。われわれ日本人は、対岸の火事と言って、高みの見物ではいられない。
共通番号の悪用で成りすまし犯罪の多発に対処するために分野別限定番号に変換するとしても、官民にわたるシステム変換や利害関係者への周知・相談・教育などで膨大なコストや事務負担を強いられることが分かる。
アメリカの社会保障番号(SSN)が導入されたのは、1936年である。パソコンとインターネットを使ったサイバー取引などまったくなかった時代である。現実空間の取引だけの時代である。
ところが、今日は、現実空間の取引に加え、パソコンとインターネットを使ったサイバー取引網が縦横に走り、グローバルな広がりを見せるICT(情報通信技術)全盛の時代である。こうした時代にあっては、犯罪対策からパスワードはできるだけ頻繁に変えるように求められる。
にもかかわらず、わが国政府の計画では、生涯不変の目に見える共通番号(パスワード)を官民にわたり幅広く使おうとする。こうした構想は、もはや完全に時代遅れである。前世紀の発想であり、この時代にはそぐわない。
まさに、アメリカの実情は、わが国の共通番号導入プランがアナクロニズムであることをまざまざと見せつけている。
こうした他国の実情を織り込んで、わが政府が提案するマイナンバー(私の背番号)構想を検証してみると、フェイズ1【限られた行政分野+関連民間分野】、フェイズ2【あらゆる行政分野+関連民間分野】、 フェイズ3【民間の自由な利用)と広げて行けば行くほど、この番号は極めて危険で犯罪ツールと化すことは目に見えている。共通番号は、絶対に導入してはいけないことを教えてくれる。わが国は、世界の動きに完全に「逆行」している。
なぜ、わが政府は、アメリカのような、こうした他国の実情を学ぼうとしないのであろうか?
住基ネットは、電子政府には必須のツールとか言って鳴り物入りで導入したものの、今や年金事務くらいにしか使い物にならないカネ喰い虫なのが現実の姿だ。こうした無用の国民監視ツールに加え、今度は、成りすまし犯罪ツールになるのが必須の危ない共通番号の導入だ。「政府の犯罪」につながるには目に見えている。
政産官学がスクラムを組んで、IT利権がらみの公共工事をすすめる愚策は止まらない。共通番号の段階的な拡大利用(フェイズ1〜3)で犯罪が多発しても、逆に共通番号を廃止、分野別番号に変換するのも、血税を注ぐ巨大な公共事業につながりIT産業は潤う・・・・といった程度の認識なのであろう。
まさに、原発再稼働で事故が起きてもバックエンド(終息作業)も新たな公共事業で潤う、といった感覚なのかもしれない。だが、これでは、いくら増税しても、まさに、「ザルに水」である。
共通番号問題で、「政府の犯罪」につながる提案を持ち上げ、大本営発表に終始する朝日新聞などわが国の主要マスメディアのあり方が問われている。
4月発行のCNNニューズ73号では、この公聴会での証言を仮約し、「アメリカでの共通番号から分野別番号への流れ」を紹介する。ご期待を乞う。
CNNニューズ編集局