2012/06/18

マイフェイスでも監視するマイナンバー制

市民の動きを網羅する監視カメラ列島化は放置できない!!

〜マイフェイスでも監視するマイナンバー制

PIJ監視カメラ規制委員会

最近の犯人追跡報道は、顔写真認識システムを使った市民の動きを網羅する監視カメラ(防犯カメラ)列島化が想像以上にすすんでいる事実をまざまざと見せつけた。犯罪者を擁護する気持ちは毛頭ないが、一般の市民の移動が常時撮像・監視され、憲法に保障された市民の移動の自由や肖像権などが常時侵害されている事実は重く受け止める必要がある。

◆問われる「顔形状自動照合システム」導入

犯罪が発生しているかどうかにかかわらず、不特定多数の人の撮像するのは、各市民のプライバシー権や移動の自由などの保障の観点から大きな問題だ。市民には「みだりに撮像されない権利(肖像権)」があるからである。

また、正当な手続を踏むことなく、半ば強制的に録画画像を提出させるのは、憲法が保障する令状主義の原則ともぶつかる。

警察庁は、「3次元顔形状データベース自動照合システム」の実用化に着手している。このシステムは、街中や駅などの監視カメラをネットワーク化し、公共空間を通行する市民の顔画像データを警察庁のリアルタイムで送信させ、これを指名手配犯などの顔写真データベースと自動照合するものである。

このシステムの試行をかねて、警察庁は2011年2月に、「モデル地区施設(鉄道、バス、空港等)」の事業者との間で「システム接続協力に関する協定書」を交わしている。

この協定を結んだ事業者の設置する監視カメラが撮像した市民の顔画像データは、本人の承諾なしに瞬時に送信され照合される。ただ、この試行プログラムの内容は市民には不透明である。

警察庁は、2009年に「警察が設置する街頭防犯カメラシステムに関する研究会」(以下「警察庁研究会」)を設置した。この研究会は、2011年9月に「最終とりまとめ」を公表した(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki8/7th_siryou_2.pdf#search)。

このなかで、今後、警察が指定した地域であれば、街頭防犯カメラの設置は自由で、法律や条例の根拠はいらないとしている。また、運用の監督は公安委員会がやるから、プライバシー保護のための第三者機関もいらないとしている。

◆マイナンバー制では、マイフェイスも監視に利用?

このように、指紋照合と同じように、雑踏の中の特定人の顔が認識され本人の承諾なしに瞬時に送信され照合されできるシステムが、ジワジワと列島のいたるところに広がってきている。まさに、市民によく見えないところで、超監視社会の実現に向けて着々と監視ツールが広がりをみせているといえる。

野党の自民党が提唱する全国民のDNAあるいは指紋登録データベースの構築は、国民感情から難しいのが実情であろう。だが、周知のように、現在、民主党政権は、共通番号(マイナンバー/私の背番号)を振り、国民全員に共通番号が記載されたICカードの発行・所持させようとしている。

仮にこうした構想が現実のものになるとすれば、ICカード作成の際に私たち市民は「マイフェイス(私の顔形状)」の提供を求められることになる。加えて、これら収集され画像処理されたデータベース化されたマイフェイス(私の顔形状)の照合も、本人の同意なしに行われることが想定される。

このように、共通番号制は、「マイナンバー(私の背番号)」の入れ墨だけでは終わらないことがわかる。さらに、ICカード発行に伴い収集された「マイフェイス(私の顔形状)」も、国民監視のためのデータ照合に使われることになるはずだ。

◆野放しのマイフェイス照合

共通番号制では、住基ネットとは異なり、情報提供ネットワークシステム【情報連携基盤/データ照合基盤】が設けられ、税金や社会保障関連のさまざまな情報を照合(突合)することが想定されている。しかし、マイナンバー(私の背番号)で串刺しして分散集約管理される各人の情報には、実質的に「マイフェイス(私の顔形状)」も含まれることについては余り注目されていない。

このマイフェイス(私の顔形状)データベースと警察庁の3次元顔形状データベース自動照合システムとをドッキングして使われだしたら、どうようなデータ監視社会ができあがるのであろうか。

しかも、先にあげた警察庁研究会が提言するように、法律や条例の根拠もマイフェイス(私の顔形状)にかかるプライバシー保護のための第三者機関もいらないとなると、マイフェイス(私の顔形状)にかかる情報を自分でコントロールする権利(自己情報のコントロール権)は風前の灯になってしまう。

◆マイフェイス照合禁止を含めた法的規制の必要性

日本弁護士連合会(日弁連)は、2012年1月19日に、「警察か管理・設置する監視カメラに対する法的規制に関する意見書」(以下「日弁連意見書」)を公表した( http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120119_3.html)。

このなかで、監視カメラの設置は法律の基づくことを原則とすべきであるとしている。また、公共の場所では、厳格基準(最高裁昭和44年12月24日判決、東京高裁昭和63年4月1日判決等)に基づいて、次の4つの条件を満たさなければ、監視カメラを設置してはならないとしている。

(1)犯罪多発地帯であることまたは将来犯罪が発生する蓋然性が認められる場所であること、(2)監視カメラの設置により前記(1)で想定した犯罪予防効果が具体的の期待できること、(3)監視カメラを設置することよりもプライバシー権等の不利益が少ない等の手段がないこと、(4)公権力が設置主体となる場合には行政機関から独立した第三者機関との間で事前協議を行うこと、一方、それ以外が設置主体となる場合には設置後の第三者機関に対して届出すること。

また、日弁連意見書では、店舗やマンションなど民間の施設については、設置者が画像データを無条件に警察に提供しないことなどを提言している。さらに、顔形状の自動照合システムや人の会話の録音の禁止等も提言している。

公権力がマイフェイス(私の顔形状)データを使って、各市民が、いつ、どこを移動しているのかを瞬時に把握できるシステムの構築は、IT技術的には可能であろう。しかし、憲法が保障する各種自由権や刑事訴訟法上の手続を侵害することは明らかだ。

マイナンバー(私の背番号)の付番問題が出てきた場合には、市民に提供を求め画像処理されたマイフェイス(私の顔形状)データと3次元顔形状データベース自動照合システムとのドッキング禁止を含めた市民本位の理論構築が必要になってくる。

増税、原発再稼働OKで、秘密保全法や共通番号導入をすすめる今の野田民主政権には、何も期待できない。市民が力をあわせて「監視カメラを市民が監視できる」細緻なシステムつくりが急がれる。