2025/01/09
トランプ復活、またトラ、で世界に広がるニヒリズム/虚無主義
2024/12/31
いわゆる「推し活」(ファンダム)政治(選挙)の行方 〜与党過半数割れ時代の政策実現の新たな作法
PIJの運営委員でもある菊池純氏は、東京税理士会所属の税理士である。同氏が代表を務める「インボイス制度の廃止を求める税理士の会(インボイスNOの会)」は、先駆的な運動をはじめた。X(エックス)[old Twitter/旧ツィッター]やホームページ(HP)を駆使し、インボイス制度廃止を働きかけはじめたのである。
同氏は、デジタル大嫌いのスタンスであったように記憶している。ところが、いつの間にか大きく変身した。いや本人は自覚する間もなく、デジタル軍団に取り込まれたのかも知れない。
いずれにしろ、インボイスNOの会は、フィクサーとして君臨してきた既存のメディア、伝統メディア(「オールドメディア/ legacy media」)に頼ってはいない。運動を、SNSを使った、いわゆる「推し活」戦略にエスカレートさせたのである。
インボイスNOの会は、次のように、公開質問状や賛同者を募り、先の衆院選では、インボイス廃止に向けた投票行動を促している(https://x.com/taxlawyer2022)。
「インボイス制度の廃止を求める税理士の会は、衆議院選挙に向け公開質問状を 10月8日各政党へ送付しました。10月17日までに回答を求めたところ、6つの 党より回答がありました。到着順にここに公開します。 各政党のインボイスに対する方針がよくわかります。投票行動に生かして行きましょう。」
■「推し活」政治(選挙)とは何か?
そもそも「推し活(おしかつ)」とは、自分のイチオシを決めて、応援する活動をさす。語源は、熱狂的なアイドルファンが自分の好きなアイドルを「推し」と呼んだことが始まりである。英語では「ファンダム/fandom=fan + kingdom」。造語だ。
政治(選挙)の世界でも推し活がエスカレートしている。「推し活」政治(選挙)の今後は不透明であるが。 いまや、いわゆる「推し活(ファンダム/fandom)」が政治(選挙)を動かす時世である。「推し活」政治(選挙)の成功体験としては、24年7月の東京都知事選で、SNSを駆使した無所属新人が2位に食い込んだ。
10月の衆院選で、SNSを使った国民民主の「103万円の壁」、「手取りを増やそう」の政治キャンペーンが話題をさらった。玉木個人商店主の不倫問題で揺れたが、強豪相手に粘り勝ちを狙っている。
それから、「2馬力選挙」と揶揄される兵庫県知事選も「推し活」政治(選挙)とされる。
DX化(デジタル・トランスフォーメーション)に伴い、政党・政治組織は、リアル(現実)空間になくとも、ネット(仮想)空間にも構築できる時代になったのである。SNSの使い方がうまくないと、伝統政党でも、新興の政党や政治組織に大負けする、消滅しかねない。そんな時代に突入したのだ。
SNS民主主義が流行りだ。共産党(https://www.jcp.or.jp/oshikatu/)を含め、各政党や政治家は、いわゆる「推し活」(ファンダム)政治(選挙)に熱をあげている。自民党は、年末に、選挙関連サイトの運営会社代表らを講師役に招き、所属議員向けのオンラインセミナーを開催した。公明党は新たなユーチューブ番組を始める。日本維新の会や共産党もそれぞれ、新たに専門組織を設けた。
政党・政治運動体は、リアル空間のみならず、ネット空間でも、大競争時代に突入したのである。今後、ますます支持政党なしの有権者の票の分捕り合戦が激化していくだろう。
■「インボイスNOの会」は悔しさをバネに!
インボイスNOの会は、24年10月17日時点で、「推し活」投稿には127万ものPV(閲覧)があったという。また、各政党へのアンケート回答は圧倒的にインボイス制度「廃止賛成」だった、と成果を強調した。
少数与党政治の下では、野党でも、国会の政党間での「政策協議」で、政策(議員立法)を実現できる可能性が高まる。これまで「言うだけ番長」に徹してきた少数野党でも、政策実現のチャンスがめぐってくる。
税理士の平均年齢は60歳を超える。「デジタルデバイド(情報技術格差)」が問われる年代である。インボイスNOの会の大部分のPV(閲覧)は、非税理士であったのではないか?ということは、中小・零細事業者のみならず、多くの生活者もインボイス制度廃止に賛成したと思われる。
にもかかわらず、インボイス制度廃止法案は、「国対」(国会対策委員会)で議論されないばかりか、国会の政党間での「政策協議」のそじょうに乗ることもなかった。
インボインボイス制度廃止には「旬」がある。だらだら運動をやっていると、”毒蜘蛛の糸にぐるぐる巻きにされ”、"定着”し、"身動き“とれなくなってしまう。
タコつぼ化してしまった「マイナンバー廃止」運動が教訓だ。「共通番号いらない会」は、役人の懐柔には乗らない、ぶれない、戦略もあった。「言うだけ番長」政党・議員との連携もできた。だが、マイナンバー廃止法案を「国対」にあげることはできなかった。
そこで、運動の戦術を、マイナ健康保険証、つまりマイナIDカードの事実上の義務化への抵抗に舵を切った。しかし、ターゲットは、12桁のリアルID(個人番号/マイナンバー)だけ。カードに格納されている「マイナデジタルID(JPKI/公開鍵式ID)」には触れずじまい。デジタルIDへの知見が乏しすぎる。ガラパゴス化し、抜け殻組織になってしまった。残念である。インボイスNOの会は、同じ轍を踏んではならない。
インボイスNOの会、ロビイング(議員立法の陳情/政党・議員への働きかけ)「戦略」はよかった。だが、「戦術」に今一つ工夫が必要だったのかも知れない。つまり、少数与党政権のもとでの政策実現のための推し活戦術の中身が今一つだったのではないか?
インボイスNOの会の菊池代表が、親しみやすい?インボイスNOおじさん“になるのも一案だ。いわば「インボイスNOのデジタル花さかじいさん」になるわけだ。そして、You-cube (ユーチューブ)や、Meta(メタ/old Facebook(旧フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)のような動画配信系のSNSで露出して、「バズる(広める)」。わかりやすい「インボイスNOれんげきょう!!」のキャッチで、ネット辻説法をする。こんな工夫があってよい。
菊池氏は、書いた文章の分かりやすさは今一つで、時間にもルーズの自由人(人は誰しも完全ではない!)。だが、正義感は人一倍強く、ぶれない。粘り強さもある。しかも露出大好きのタイプ。インボイス制度廃止の「推し活」行脚にはうってつけの人材だ。「白旗大嫌い!」「当たって砕けろ!」の意気込みで、零細事業者をはじめとした経済的なひ弱な納税者に味方して、大健闘を期待したい。
ただ、”中途半端”な戦術は運動を泥沼化、蟻地獄化しかねない。商売する人たちはもちろんのこと、サラリーマンや主婦、学生、年金生活者など幅広い庶民が「感動」「耳にに残る」キャッチが必須だ。でないと、ギャラリーは聞いてもすぐ忘れる。そして運動も息切れする。菊池氏を、孤島で「インボイスNO!」の赤旗を掲げる裸のじいさんにしかねない。
それに、ロビイングの際には、働きかける政党・議員を、自分の政治信条でえり好みしないことがコツである。大衆に奉仕するスタンス堅持、「言うだけ番長」の政党・議員を見抜ける目利きになること、が大事である。
どんな政策でも、「推し活」でSNSのそじょうに乗せ大衆動員することができれば、しめたものである。議員立法/プログラム法のロビイング(民間団体からの陳情/政党・議員への働きかけ)を請ければ、政党・議員は、それを完全には無視できまい。
悔しさをバネに、強靭な戦術で、しかし慎重に、一発逆転を狙って欲しい。
■混迷を極める「公正で自由な選挙」
もちろん、SNSなどの「ニューメディア」を使った「推し活」政治やロビイングには功罪(毒と効用)がある。ポピュリズム(大衆迎合主義)、マインドコントロール(熱狂)、自由・公正な選挙、フェイク誘導など、解決されなければならない課題も多い。
シルバー民主主義を壊し、若者主体の民主主主義をつくるには「ニューメディア」の出番?? 「破壊こそ建設なり?」。本当だろうか? 今や多くの高齢者がSNSを使いこなす。今の若者もいずれ高齢者の仲間入りをする。SNSを、高齢者と若者の「分断」のツールに使う作法は、いずれ賞味期限切れになるはずだ。
「民主主義の寛容は、トランプ氏のような権威主義丸出しの不寛容に無力なこと」は明らかである。選挙に負けた腹いせにSNSで議会乱入を煽ったことはゆるされてはならない。また、再選で、すべてがチャラになるのでは、「法の支配」に根差した民主主義は崩壊してしまう。”またトラ“で、アメリカ民主主義の修復には、少なくとも4年、必要になった。
兵庫県知事選では、当選を目指さない候補が他人のプライバシーを深く傷つける情報を流布し、他の候補を支援した。いわゆる「2馬力選挙」である。SNSでフェイク情報をネットに垂れ流すのを即座にストップかけるのは至難である。SNSのプラットフォーマーは「疑わしきは削除せず」のスタンスであるからである。また、司法に救済を求めても、膨大なテマ・ヒマがかかる。「法の支配」を求める側が泣き寝入りせざるを得ない構図にある。
「無原則な寛容を捨てて、公的規制に舵を切るべきである。」との声が強まっている。もちろん、公選法との整合性を点検することは大事である。だが、放送法のような縛りで国家が「ニューメディア」を統制・監視するのには、大きな疑問符がつく。憲法が保障する「言論の自由」にとり、危険だからである。わが国が、中国のようなデータ監視国家・デジタル権威国家に変貌しかねないからである。
■「オールドメディア」の新たな役割
東京都議選、参院選をはじめとしたこれからの選挙での動きが注目される。既存の政党と新興政党との間で、「ニューメディア」を使った「推し活」選挙で、集票合戦を繰り広げるのではないか。
「ニューメディア」は、大衆を誘導するために、プライバシーを傷つけ、フェイク情報を垂れ流しているケースも少なくない。ネットで大衆動員して「オールドメディア」たたき、真実潰しにも使われている。
「オールドメディア」は、概して「調査報道(investigative journalism)」に強い。放送法で縛られていることをプラスイメージに使いこなす高度のスキルがいる。勇気を出して、「ニューメディア」が真実を報道しているかどうかを精査・追求しないといけない。萎縮しないことが大事だ。
ネット空間は、無償/タダの「ニューメディア」の独断場だ。有償/強制加入のNHKのネット進出の舵取りは至難だ。民放を超える若者向けの娯楽番組や庶民目線のワイドショーの拡大路線、過去帳番組のネット配信路線もわからないでもない。しかし、こうしたビジネスモデルが、逆に無償/タダの民放との矛盾を広げるのではないか。
今は軌道を失してしまったが、「NHKから国民を守る党」の当初のスタンスは理解できる。カルトから解脱(げだつ)できなかった政党・政治団体の「推し活」選挙モデルの検証にとっても大事である。学びには必須事例だ。
「オールドメディア」に1つである「新聞」もその存在感が問われている。全面広告のような資源の無駄遣いは、止めないといけない。大半の読者は、SDGs報道をしながら「ゴミ」を増産する姿勢に嫌悪している。環境への負荷が大きすぎるからだ。
総花的な報道姿勢の改善も要る。膨れた社員の雇用対策も大事ではある。しかし、経済紙は経済に特化すべきだ。価格を下げ、ネット攻勢、市場競争に挑むべきだ。でないと、「ニューメディア」に負ける。無償と有償では、そもそも勝負にならないからだ。「コンテンツ」で勝負できれば別だが。
対岸のアメリカでは、New York Timesが唯一、新聞のデジタル化の成功例とされる。だが、わが国の新聞が「ニューメディア」に大胆に変身できるかはどうかは行先不透明である。
「Japan as No.1」とちやほやされた時代は遠い昔のことになりつつある。
よいお年を!!
2024/12/23
立民は、ぶれないで、「雄弁、言うだけ番長」を卒業しないと!!
立憲民主党(立民)は、先の衆院選で、「政権交代」の迷信、復古を繰り返した。それでも、党勢は回復できた。
ところが、国民民主党(国民)は、「103万円の壁」、「手取りを増やす」政策で、岩盤の突き崩しに懸命に取り組んだ。この姿勢は生活者の評価を得た。同党の対する好感度が増し、いまや立民をしのぐ勢いだ。
立民は、あきらかに政策を実行する勢いを欠いている。「雄弁、言うだけ番長」の野田立民の政治姿勢が問われている。立民は、庶民のこと忘れているのはないか? 自分等の生活共同体に劣化しているのではないか? ・・・・・厳しい批判が相次ぐ。形だけの議員立法案だけはするが、国対(国会対策委員会)にかけ、実現する熱意は今一つ。残念ながら、アリバイつくりだけが目立つ。
もちろん、議員立法を働き方をする側にも、少数与党体制のもとでの立法手続のイロハがよくわかっていないのも問題であるが。
野田立民は、12月22日、「学校給食の無償化」に向けた法案を、国会に他の野党と共同提出したい考えを示した。だが、立民は、2023年3月29日に、同じ提案をしている。これは、見方を変えると、これまでも立民は「言うだけ番長」を繰り返してきたという確たる証拠の1つだ。
「103万円の壁」に続く、“二匹目のどじょう”を狙う「学校給食の無償化」案。野党連携の“つまずき”をつなぎとめる添え木、磁石になるのか?
野田立民は、「雄弁、言うだけ番長」の姿勢を改め、「実現ファースト!!」、「成果主義ファースト」で、庶民の信頼を確保しないと、「政権交代」を正夢にできない。主導権すら握れない。
「マイナ保険証問題」、「原発再開問題」、「インボイス制度廃止案」など、急いで対応すべき政策課題は山積している。だが、野田立民は、「スルーするのは当り前」、「言うだけ番長」、「やった振り」に徹しているのではないか?
いまの野田立民は、どこか「労働者の味方」を掲げて返り咲いたトランプ氏にも似ている。もちろん、言うだけ番長だから、大企業ファーストで具体的に行動するトランプ氏よりは害悪は少ないと見ることもできるが・・・。
でも、今の野田立民の姿勢では、きたる参院選では生活者や中小企業者から痛いしっぺ返しを受けるのではないか?
PIJには、次のような投稿(ツイート)があった。
「やっぱりぶれない河村党が強いのも頷けますね。マイナ保険証も、不具合が多く、コストパフォーマンスが悪すぎる、使い勝手がよくない、プライバシーも大丈夫ではなさそうです。血税の無駄遣いストップ、その分を減税に回すのスタンスが、庶民には一番わかりやすいかもしれませんね。マイナンバー(マイナ)に一貫して反対をし続けているのも河村さんだけですね。ぶれないから彼への支持が減らないんでしょう。政治信条は相容れないところもありますが、むしろ日本保守党が、マイナ反対の旗頭になるかもしれませんね。名古屋市長選で、与野党相乗りで漁夫の利を得ようとした大塚候補を蹴散らしてしまいましたが。これも、マイナ導入の父である国民民主党系、無駄遣い大好き政治に迎合し、古色蒼然とした体制に向けて逆走しようとする大塚候補の政治姿勢に、庶民が「ノー」をつきつけた結果でしょうね。」
政治哲学はいろいろあると思う。PIJは、超党派のNPOである。好き、嫌いで、特定の政党や政治団体と組することはない。
しかし、いずれの政党も、庶民/生活者、中小企業者の声をしっかりと吸い上げられなくなると、絶滅危惧種になるのではないか??
「マイナ保険証問題」、「原発再開問題」、「インボイス制度廃止案」などの「単一争点(シングルイシュー)」で運動する団体は、”政治哲学の異同”ではなく、”実利”で行動する柔軟さが求められる。運動団体は「リベラルはとかく言うだけ番長になりがちなこと」をしっかり学ばないといけない。実利ファーストで、玉木個人商店や河村個人商店などにも働きかけを強めるべきだ。
政党は、政策で競争することを避けてはいけない。PIJは、マイナバー廃止/利用制限の政策提言を続けている政策提言NPOである。自らが「言うだけ番長」になるのではなく、「当たって砕けろ!」、「来る者は拒まず!」の姿勢で、積極的に政策提言をしたい。
2024/12/02
「雄弁、言うだけ番長の政党」では、いずれしっぺ返しを受けるのではないか?
12月2日から、マイナ保険証への一本化が始まった。いまだ利用率1割台なのにもかかわらず!!である。衆院選のときは、与党の閣僚まで必ずしも一本化に積極的ではないとの姿勢を打ち出したものの、ただのリップサービスであったのだろう。「のど元過ぎれば熱さを忘れる」・・・・・。
政治主導のアメリカとは大違いで、相変わらずの役人主導の国である。司法(東京地裁)も相変わらずの行政追従である。任意取得のはずのマイナカードの医療へ半ば強制的な汎用にストップをかける判断を示さない。司法の独立も危うい。
マイナ保険証一本化に反対のさまざまな市民団体も攻めあぐねている。
立憲民主党(立民)は、10月20日に「マイナ保険証に統一する時期を延期するための法案を衆院に提出した!」。だが、「雄弁、言うだけ番長」で、具体的な政治行動はない。国民民主党(国民)の「103万円の壁」打破への政治行動に比べると、この政治課題(イシュー)で、立民は明らか見劣りする。
「インボイス制度の廃止を求める税理士の会(インボイスNO!の会)」(代表 菊池純 氏)はインボイス廃止に争点を絞った「シングルイシュー(単一争点)運動体」である。同会の調べによると、10月27日に実施したアンケート調査によると、自民党や公明党を除き、大半の野党は、インボイスの廃止に積極的であった。(https://www.taxlawyer2022.org/)。先の衆院選では、与党は過半数割れとなった。この調査に回答しなかった維新や公明は大きく後退した。
野党は、インボイス制度廃止のイシューで、本気度が問われている。まさに「雄弁、言うだけ番長」の如しで、目に見えるような政治行動がないからだ。いずれしっぺ返しを受けるのではないか?
一方で、インボイスNO!の会も、攻めあぐねているのではないか。インボイス制度廃止は、一過性のイシューである。ゴーイングコンサーン(永続できる組織体)である必要はない。しかし、同会は、線香花火で終わらないように、それなりの努力はしている。Xなどのソーシャルメディア(SNS)を駆使しており、フォーラム(語りの場)を設けている。インボイスNO!の会を引っ張る人たちは政治を動かすそれなりの巧みさを持ってる。
ただ、ムシロ旗をあげるには大好きでも、実績をあげるには「雄弁、言うだけ番長」の組織体からどう脱却するかが問われている。どの市民団体でも抱える問題でもある。
政治を動かす巧みな戦略が求められている。最近の動きを見ていると、政治を動かすヒントとしては、SNSを使いこなすことにあるのかもしれない。
2024/11/25
米「またトラ政権」で、記入済み申告/デイレクトファイル(DF)/IRS/IRSの納税者権利擁護官はどう対応する??
・ アメリカでは 「またトラ政権(President Trump, Again」が2025年1月末から始動する。またトラ政権は、大統領選勝利後、即、政府効率化省/DOGE(ドージ/Department of Government Efficiency)を新設する構想を発表した。
・ DOGEは、仮装空間(ネット空間)に設立され、イーロン・マスク&ビベック・ラマスワミら新興企業経営者らが、 ボランティア(無給)で参加・主導する。外部からボランティア参加するのは、政官民間の利益相反を回避するのがねらいだ。DOGEは、またトラ政権が提唱する「連邦税減税政策」に沿い、税収の垂流しにストップをかけるために、「連邦省庁の整理・統合プラン」、「連邦省庁の職員削減プラン/歳出削減プラン」を作成し始めた。
・ アメリカの場合、連邦の歳出は、大きく 1.裁量的経費支出(discretionary expenditure)と、2. 義務的経費支出(mandatory expenditure)に分けられる。
・ DOGEプランに盛られる 1.裁量的経費支出削減については、大統領が、大統領令で行うことができる。
・ 一方、DOGEプランに盛られる社会保障給付などの 2.義務的経費支出削減は、議員立法で対応する。今般の選挙の結果、トリプルレッド (大統領・連邦議会上院・下院が共和党支配)になったことから、2.義務的経費支出削減は比較的スムースに進むのではないか?
・ 連邦政府は、おおよそ200万人の職員を雇用している。連邦財務省(DOF)はおおよそ11万人を雇用している。う ち、課税庁/内国歳入庁(IRS)は、おおよそ9万5,000人(うち正規職員は78,000人程度)【バイデン政権の プランでは、IRSの職員を数年以内に102,500人まで増員の計画。これに対して、またトラ政権は、バイデン政権のIRS職員増員計画には反対の立場。増員計画は破棄されるものと思われる。】
・ したがって、またトラ政権は、バイデン民主党政権の税務執行強化による増税政策を、減税+納税者権利擁護ファースト政策に転換する。アメリカでは、保守が「減税」+「納税者の権利擁護ファースト」を強く打ち出すのが伝統。
・ またトラ政権は、DOGEが、IRS職員の大幅削減をするプランを作成する方向。【IRS業務の州への移管計画は未定。 連邦公正税(所得課税の廃止およびIRSの廃止を盛り込んだ「給付つき連邦一般小売売上税法案」、公正税法案( FTA=Fair Tax Act of 2023)23%の連邦小売売上税の導入および賦課徴収業務の州への移管プラン/14b814a8c7074cc7d5be18174e68fb7c.pdf)の実現は、最終的に連邦憲法修正が伴うため不透明】
・ 一方、またトラ政権は、「連邦教育省(DOE)」を廃止し、業務を州に移管する計画。
・ またトラ税制改革では、「減税」が中核となる。2017年の税制改革(TCJA=Tax Cuts and Jobs Act of 2017)で 実施した個人所得税の減税(2025年までの時限を延長・継続)、TCJAでの法人税率減税(35%の超過累進税率から 21%へのフラット税率)をさらに15%まで引下げる。
・ バイデン政権、連邦議会民主党は、「すべての納税者は、納税申告を無償できる国つくりを目指す」。2024年に記入済み申告である「ダイレクトファイル(DF)」を試行した。そして、2025年1月15日からはじまる2024年度分の個人所得税の確定申告からDFの本格導入に舵を切った。一般的な確定申告(給与所得・年金申告など)は、納税者が望めば、スマホ(移動端末)を使いワンクリックで完了できる仕組みになる。
・ 連邦議会共和党は、連邦議会民主党と対峙する狙いから、税務申告ソフト企業、申告書作成業者や税務専門職の職域護の視点から、ダイレクトファイル(DF)の本格導入に消極的姿勢であった。
・ これに対して、DOGEは、あらゆる不要な政府規制の撤廃が目標。規制撤廃は、法改正よりは、AI化・自動化で実現しようという方向だ。
・ アメリカでは「納税申告支援ロボット/タックス・コンプライアンス・ロボット(tax compliance robots)」や「ロボットAI税/RAI税(Robotics, Artificial Intelligence, and Automation tax)」の導入案も目白押しである。わが国でも、DX化/デジタル化/AI化の激流が税務専門職の職域(税務書類の作成業務+税務相談業務)をじわじわと浸食し始めている。業法改正によるニセ税理士退治のような一時しのぎ(stopgap)策は、政府規制緩和の精神とぶつかるだけでなく、業界の自滅につながることが危惧される。むしろ、政府規制でつくられた税務専門職は“DX化に向けた学び直し”、「どんとこいAI化・自動化!」のガッツ(気概)を持って対応するように求められる。
・税務のDX化/デジタル化/AI化は、納税者には利便性が高い。一方で、税務専門職には職域を奪う負の影響がある。 納税者・納税者団体と税務専門職との間の「分断(divide)」を広げる可能性も高い。ただ、デジタルネ―ティブが税務専門職界の中核を占めるのも時間も問題であろう。「分断」ではなく、「協調」の時代に入るのは、時間も問題ではないか?
・ IRSの納税者権利擁護官は、記入済み申告/「ダイレクトファイル(DF)の本格導入に賛成、積極的姿勢に転換している。理由は、税制の簡素化が遅々として 進まないことがある。むしろ、税制は年々複雑化する一方である。給付つき税額控除(EITC/勤労所得税額控除)のような煩雑の仕組みを 継続するには、AIなどの先端技術を活用して記入済み申告の導入により、納税者に権益を保護する方向を目指すしかない。」との考えを強く打ち出すにいたっている。
・ DOGEを率いるイーロン・マスクは、将来的には、AIやロボテックスが人間労働のほとんどを支える時代がくると発 言している。彼は、デジタル化の進展で、人間はユートピアでレジャーを楽しんで生きられる存在になるとイメージ しているのかも知れない?
・ イーロン・マスクらは、当然、税務申告は、AIやロボテックスが支え、無償サービスとなるとイメージしている。
・ イーロン・マスクやメタのマーク・ザッカーバーグ、マイクロソフトのビル・ゲイツなどは、AI&ロボットなどに課税する仕組み(ロボット税/RAIA税の導入)を想定している。イーロン・マスクは、ロボット税、RAIA税の税収を、国民に配分する「ユニバーサル・ハイ・インカム」を導入する考えを発表している。
・ 「ユニバーサル・ハイ・タックス」とは何か?「ユニバーサル・ベーシック・インカム (国民全員に一定額の所得を配付する制度)」、あるいは「負の所得税」とはどう違うのかは、不透明?
・ イーロン・マスクらが率いる新設されたDOGEは、DOGEがダイレクトファイル(DF)のエスカレートによる納税者 の確定申告無償化の徹底を掲げるのではないか、との報道を受けて、アメリカで代表的な税務申告ソフト作成・販売業者であるH&Rブロック社とインテュイット社の株価は下落した。
・ 老いが目立ち、よぼよぼで不人気のバイデン、男尊女卑に風土で勝てなかったカマラ・ハリスが残した「またトラ政 権」誕生の世界に及ぼす影響ははかり知れない。
・ 曲がりなりにも、アメリカは「議会制民主主義」を国是としている。連邦議会民主党は、2年後の連邦議会議員選挙 に向けて、一般の生活者をもっと寄り添う政党への生まれ変わりを急いで欲しい。
2024/11/08
トランプショックとアメリカ税務行政の行方
米大統領選は、選挙モンスター、トランプの大勝利だった。この結果には、アメリカのみならず、世界の民主勢力には大きなショックを受けた。リベラルなニューヨーカーのなかには、アメリカ政治に失望し、カナダなど他国へ移住したいという人まで現れている。
大統領選挙の投票日が近づくにつれて、NYタイムズを除き、主要新聞が次々と「沈黙」し出した。今回のハリスの大負け、メディアには、想定の範囲内だったのかも知れない。
衰えを隠せない現大統領の姿は、強いアメリカを求める民衆には、マイナスのインパクトが強すぎた。一方のトランプは、同じくらいの年齢でも、マッチョで、発言も、失言も、力強い。
連邦議会民主党が、衰えの隠せない現大領領に、「バイバイ、バイデン」ができなかったことが一番の敗因ではないか。バイデンが早めに次期大統領職のシートを手放し、ちゃんと予備選をやっていれば、結果は異なっていたのかも知れない。
バイデンのパートナーのハリスは、元検察官で「法の支配」に終始。経済の話になると、無難な答えをするので精一杯。日本では、裏金問題追及だけで票が集まる。だが、アメリカは違う。大領領選では、経済や税財政政策で説得力をもって語れないと、大きな弱点になる。バイデン政権は、イスラエルやウクライナに大量の武器を送った。ところが、制限付きとかで中途半端。死者なしで戦争を終わらせる政策がない。そのかげで「インフレで中産階級の生活は火の車」。民意が、彼女に「ノー」をつきつけた最大の理由の1つであろう。
民意は、トランプがベストとはいえないが、バイデン政策の承継ではなく「チェンジ」を求めたのであろう。民意は、当面「人権より、生活、パン」ファーストを求めたのは確かだ。しかし、いずれ生活者がこの投票行動のつけをは払わされことになるになるかもしれない。自己中のトランプと自己中の投票をした生活者、どちらに勝ち目があるのだろうか。2年後の連邦議会議員の中間選挙の結果を待つしかない。
「有色人種、しかも女性、大統領職、軍の最高司令官職は、任せるわけにはいかない!」の隠された民意が票に現れたのこともあろう。男尊女卑、白人至上主義、キリスト教の良妻賢母のような込み入った流れが圧倒してしまったのかも知れない。とりわけ、中西部の白人、全国の黒人男性には、「黒人の女性が大統領になる」のには、抵抗感が強いようだ。こうした傾向は、世論調査などを見ればわかる。白人のヒラリー・クリントンでもガラスの天井を打ち破ることができなかった。アメリカの有権者は、女性、しかも有色人種、の大統領を受け入れる心構えができていないということだろう。いいかえると、トランプは、2回とも、女性候補に助けられたということだ。男性のバイデンには勝てなかったわけだから。
ということは、本当のところ、男社会の実態は、アメリカも、日本とあまり変わらないのかも知れない。
カマラは頑張った。だが、アメリカの隠された男社会の岩盤を突き崩せなかった。次回の大統領選でも、カマラの再登板は至難であろう。
白人至上主義、有色人種排除の動きが強まり、さらに分断が進むのは必須だ。トランプ政権では、白人優先の閣僚人事が進むのではないか。
* * * *
さっそくカリフォルニア州(加州)のギャビン・ニューサム知事が、トランプの政策に反旗!!をあげた。「加州と民主主義を守るために闘う!」がキャッチだ。
トランプは、地球温暖化対策を掲げるパリ協定を脱退し環境保護には後ろ向きの姿勢を貫いている。彼は、選挙戦で、環境保護ファーストのリベラルが支配する加州には、山火事が起きても連邦予算を付けないと揺さぶった。
しかも、ハリスもバイデンも早々と敗北宣言をした。結果、法の支配を散々無視してきた暴れん坊のトランプを無罪放免にした。赦すことは大事である。2人とも、潔しで、お行儀もよい。だが、「ワイルドウエスト」の伝統のある加州のトップとしては、赦す、赦されることで一件落着を急いだ2人に相当ショックを受けたのではないか。いま、ニューサムは「怒りのランボー」常態だろう。
白人そして男性のニューサムが、4年後の民主党の大統領候補の一番手になるのではないか。ニューサムは、最近、加州議会がAI規制法を成立しようとしたのに拒否権を行使した。左派・リベラルのカラーを薄めようと懸命だ。産業界寄りの姿勢も見せて、支持層の拡大に努めている。
ニューサムは、トランプの後釜としては、最適な人材に1人だと思う。ただ、トランプのような選挙モンスターではない。ニューサムは「加州と民主主義を守るために闘う!」ことで、タフガイで、全米に注目され、民意をつかめる選挙モンスターに成長して欲しい。世界の大国アメリカのリーダーとして安心して投票できる大統領候補になって欲しい。
* * * *
トランプの再登板で、アメリカ(連邦)の税制や税務行政はどうなるのか。
不動産業界出で減税大好きのトランプ租税政策の大黒柱は、現行の法人税率21%から15%への引下げだ。イーロン・マスクマスク氏が率いるテスラのような大企業は潤うことになる。(余談だが、トランプとマスクは、どちらも唯我独尊、いずれは仲たがいかも知れない。)
トランプは「減税」ファーストの一方で、アメリカの産業/労働者を保護するために「関税」大幅引上げを叫ぶ。ただ、アメリカの生活者は、安価な外国産品で潤ってきた。関税の大幅引上げは輸入品価格が大幅上昇につながる。関税引上げで、確かに国庫には大きな税収が転がりこむ勘定になる。だが、生活者には、実質3〜5%の連邦消費税を導入するに匹敵する増税になるとの試算もある。生活者には大きなマイナス効果が及ぶ。生活者はインフレに苦しむ結果になるはずだ。
バイデンの税務行政政策の基本は、税務調査強化で税収をあげる、というものだ。トランプの返り咲きで、これまでのバイデンの税務調査強化策はストップするはずだ。
アメリカは、スポイルシステム(猟官制)を敷く。選挙だ勝った政党が、政府官職のポストを総取り(政治任用)する仕組みだ。連邦課税庁(IRS/内国歳入庁)のトップは政治任用なので、変わる。IRSの予算は大幅に削減されるだろう。IRSの組織も大きく変わり、ダウンサイズ化が進むだろう。
それに、納税者(とりわけ富裕層)の権利利益は今以上に保護されるはずだ。わが国では、概してリベラルが減税・納税者の権利保護を叫ぶ。ところが、アメリカでは真逆だ。保守が減税・納税者の権利保護を叫ぶ。
いずれにしろ、IRSの無人化、税務のデジタル化で、徴税コストの大胆な削減、IRSの「解体的」な合理化に進むのではないか。
IRSは、2024年15日にはじまる2023課税年分の個人所得税の確定申告から、記入済み申告(pre-filled tax return system)を、ダイレクトファイル(DF)の名称で本格導入する。バイデン政権は、記入済み申告導入で納税者を煩雑な確定申告から救い出せる、という考えだからだ。給与所得や年金所得など、簡潔な確定申告をする納税者は、IRS のウエブサイトにログインし、スマホの画面を見ながらIRSが作成した申告データに同意すれば、ワンクリックで確定申告を終えられるようになる。
これまでの電子申告システム(e-file)では、市販の税務申告ソフトを使う。ところが、新たに導入されたダイレクトファイル(DF)は違う。納税者は確定申告に市販の申告ソフトを使う必要がない。無償、官製/官営のシステムだからだ。民間の税務申告ソフト業界からすると、まさしく、官尊民卑のシステムに映る。
民間ファーストを唱える議会共和党は、民間の税務申告ソフト業界益の擁護に熱心だ。連邦議会共和党が、大統領職に加え、議会上下両院の過半数を制し、“トリプルレッド”になる可能性が極めて濃厚だ。次期トランプ政権下、議会共和党は、無償のダイレクトファイル(DF)のエスカレート利用にストップをかけ、税務申告ソフト業界益を保護に動くのではないか?
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上品ではないトランプの返り咲きは、品位を大事にするアメリカ人には大きなサプライズだ。それに、いまだ人種、ジェンダーの壁はとてつもなく分厚いと感じる。「勝てば官軍、負ければ賊軍」の言葉は、今後アメリカでも広く通用しそうだ。
不動産業界出、唯我独尊のトランプ再登板で「破壊こそ建設なり」の大きなウエーブが起きるのではないか?西欧型民主主義のフロントランナーのアメリカが、権威主義国家、独裁者主導国家に変容することが危惧される。
グローバルに見ても、今後数年は、政治倫理、国際協調よりも、弱肉強食、マネーファーストで経済的強者が威張りちらす、資本主義丸出しの時代が続くのではないか。
2024/09/14
各地であぶり出される恐ろしき公権力濫用県政
◆兵庫県の公益通報制度は“盗聴器”?
ドイツのナチス政権下、その後の東ドイツでは、市民が赦しを乞うに訪れた教会懺悔室は盗聴器だらけだった。こんなこと、独裁国家、権威主義国家では常識としても、民主主義国家では赦されない。
公益通報者保護法は、報道機関なども通報窓口として定め、一定の要件のもとで通報者への不利益な取り扱いを禁じている。斎藤元彦・兵庫県知事は、自身のパワハラ行為などの告発者捜しに公益通報制度を悪用していたことがわかった。 兵庫県のように公益通報制度を“盗聴器”のように扱う実務は、民主主義国家にはなじまない。県の百条委員会で参考人として意見を述べた山口利昭弁護士は批判した。「文書の存在を知った直後に、誰がどんな目的で書いたのか探索するというのはありえない。法令違反だ」と。
斎藤氏のような資質の人物は、やはり民主主義を大事にしないといけない組織のトップにはふさわしくない。権力を持つとおごり高ぶり、市民や弱者をいたぶるような感覚の人物は、政策を練る仕事をする前に、自らの再教育が必要だ。任意取得のはずのマイナ保険証を国民をいたぶるように強いる御仁や、介護施設や保育園などで弱い入所者や入園者をいたぶる人物も同様である。
◆岐阜県警の市民情報の違法収集・横流しは違憲・違法
岐阜県警大垣署が、岐阜県大垣市での風力発電施設建設に反対する地元の寺の住職ら市民の学齢や病歴、過去の市民運動暦などの個人情報を中部電力子会社「シーテック」に垂れ流ししていた。
この事実をオープンにしたのは、朝日新聞名古屋本社版2014年7月24日のスクープ記事である。この記事では、県警大垣署警備課とシーテックが、複数回にわたり協議した内容の議事録が詳報された。
2016年12月、名指しされた市民4人が原告となり、岐阜地裁に提訴した。警察が目を付けた特定個人の情報を集め、第三者に提供するのはプライバシーや思想・信条の自由、表現の自由を侵害するというのが提訴の理由だ。
岐阜地裁は、2022年2月に、判決をくだした。警察の行為は、プライバシー情報を積極的かつ意図的に提供したのは悪質であるとした。220万円の賠償を命じた。一方、情報収集の違法性は認めなかった。理由は、警察は、万一に備えて情報収集の必要性があったからだという。原告市民は、名古屋高裁に控訴した。
名古屋高裁は、2024年9月13日に判決をくだした。情報収集の違憲性、違法性を指摘して一審岐阜地裁判決を変更し、一部の抹消を命じた。賠償額についても情報収集が警察官の裁量権を逸脱しており、プライバシー侵害は明らかだとして原告請求を認容した。賠償額も、一審から倍増の計440万円とした。
今年8月、名古屋高裁は、無罪判決が確定した男性が捜査時に採取された指紋やDNA型を警察庁のデータベースから抹消するよう求めた訴訟で、データの抹消を命じた1審判決を支持する判決を言い渡した。この判決も今回の判決を書いたのも、名古屋高裁の長谷川恭弘裁判長である。今回の判決を下した9月13日が同裁判長の退職日。警察当局による行き過ぎた情報収集活動を立て続けにとがめた形で裁判官の仕事を終えることになった。
公安警察の行き過ぎた情報収集・配付を厳しく批判した名古屋高裁判決を、原告の市民側は「望みうる中で最高の判決」と高く評価した。
岐阜県警を実質的にマネージしている警察庁(国)は、名古屋高裁の判決には納得しまい。今後、最高裁で争われるのではないか。
鹿児島県警の事例もいまだ記憶に新しい。各地であぶり出される恐ろしき公権力濫用県政をとがめるには、やはり市民のパワーが要る。
2024年9月13日 名古屋高裁判決の要旨
<県警の行為は違憲・違法>
憲法は、個人情報の収集および保有がみだりにされない自由も保障していると解すべきである。これらが侵害された場合に、損害賠償請求ができるのはもちろんのこと、保有している情報の抹消なども具体的な権利として認められる。 県警による個人情報の取得、保有および利用は、著しく社会的相当性を欠き、恣意的な運用が行われていた。県はこれを改めようとはせず、一般的、抽象的な公共の安全と秩序維持を唱えて擁護しようとするばかりである。警察組織内部での自浄作用は全く機能していない。 県は大規模かつ無秩序な「大衆運動」が展開する危険性を秘めているなどと主張する。加えて、県警が行った情報収集活動にも必要性は認められるなどと主張する。しかし、市民運動やその萌芽の段階にあるものを際限なく危険視して情報収集し、監視を続けることが憲法による集会、結社、表現の自由の保障に反することは明らかで失当というほかない。 原告らが行ってきたこれまでの活動を見ても、何ら犯罪性や、公共の安全や秩序に対する危険性は認められない。原告らは適法かつ平穏な方法によって活動していると認められる。風力発電事業に対する反対運動が広がったとしても、公共の安全や秩序の維持が損なわれる可能性は全くうかがわれない。 県の主張は市民運動一般に対する誤った理解に基づく独自の見解と言わざるを得ない。原告らのメーリングリストの内容を県警や中部電力子会社シーテックが入手することは、メーリングリストがそこに含まれる限られた者の通信手段であり、外部に公開されていないことからすると、憲法の保障する通信の秘密を害する行為であると認められる。情報を入手する手段において違憲、違法と言わざるを得ない。 原告らはいずれも県警から違法に個人情報を収集、保有された上、シーテックに違法かつ意図的に個人情報を提供されたことで多大な精神的苦痛を被った。原告に支払われるべき慰謝料額は請求額である100万円を下らず、弁護士費用についても10万円を下らない。
<結論> 県警の収集、提供行為の違法性について1審判決を一部変更し、原告らの損害賠償請求をいずれも請求通り認容し、県の控訴を棄却する。提供情報に基づいて事業者が作成した議事録の記載から特定できる情報の抹消について、県に対する請求を認容し、国に対する請求を棄却する。
2025年が幕を開けた。SNS利用拡大が、世界中で物議をかもしている。選挙に負けた腹いせにSNSで議会乱入を煽ったことはゆるされてはならない。再選で、“またトラ”が正義の味方となる?そして、すべてがチャラになる?これでは、「法の支配」に根差した民主主義は崩壊してしまう。
「ポスト真実政治(post-truth politics)」、つまり、客観的真実より、個人の主張や感情が世論を形成、政治を支配する風潮が強まっているということだろう。
いち早く「破壊こそ建設なり」の言動やフェイクを拡散し他国や他者をいたぶる“またトラ”に抱きつくこと。これが「正義(justice)」のような風潮がグローバルに広がる。
「抱きつき願望者」は、わが国の首相だけではない。アメリカの“カオス大好き”のイーロン・マスク氏もその1人だ。札束で世界最大規模のSNSであるX(旧ツイッター)を手に入れた。そして、国境のないネットを使って世界政治をあおる。“またトラ”とタッグを組み、「資本の論理ファースト」のキャッチでネット行脚し、デジタル独裁者の顔を露にしてきている。帝国主義的野望を露にしたあおり言動は、ロシアのプーチン氏と重なる。
SNSの大手Meta(メタ)のトップ、マーク・ザッカーバーグCEOも、抱きつき組の1人だ。再選後、白旗を掲げ“またトラ”に急接近。そして、Meta(メタ)が運営するFacebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)などSNSの虚偽情報の判別をする「ファクトチェック」をアメリカでは止めた。代わりに、ユーザー同士が誤解を招く投稿などを補足し合う「コミュニティーノート」方式導入に舵を切った。表向きは「言論の自由」重視の原点に回帰するため、というのだが?
EU(欧州連合)は、Meta(メタ)に警告した。「ファクトチェック廃止はEUの2022年デジタルサービス法(Digital Services Act/Regulation 2022)にぶつかる。」と。対米追従は当り前のわが国はどうだろうか。EUのように、Meta(メタ)に物言いができるだろうか?
ポピュリズム(大衆迎合主義)が世界中に拡散し、これまでの価値観が通用しない。ネット空間では当り前のようにフェイク(ニセ情報)が徘徊する。これでは、世界中がニヒリズム/虚無主義の“蟻地獄”に落ちるのではないか。
「アメリカ独り勝ちは放置できない!」「倫理、コモンセンス、民主主義的な価値観が通用しない人間に対する無原則な寛容は、無秩序につながる!」、「民主的な言論の自由を守るには不寛容、公的規制強化、劇薬もやむなし!」の声が高まる。